第24話「何か怪しい大会」



「さぁ、やって参りました。第57回ガンセツ島オリジナルオリエンテーリング大会ガンセツウルフ、まもなく開幕です!」


 スタート位置に次々と並ぶ出場者達。俺は拓馬の余裕綽々な顔を睨み付ける。


「私、実況の木上慎太郎きのうえ しんたろうと申します。今回も並々ならぬ強者の方々が出場なさるようですね。果たしてこの中で優勝をもぎ取るのはどのチームなのでしょうか。全力を尽くして戦ってください。検討を祈ります!」


 実況担当の言葉の後、会場はスッと静寂に包まれる。声が吸い込まれてしまったように。




 パァン!

 その静寂を、スターターピストルの音が切り裂いた。出場者は一斉に走り出した。戦いの火蓋が切って落とされた。


「スタート! 各走者一斉に走り出しました! ガンセツウルフの開幕です!!!」




 俺も瞬時にスタートを切り、目の前のテーブル目掛けて一直線に駆けていく。テーブルには地図とコンパスが置いてある。


「行くぞ!」


 ガンセツウルフのルールはこうだ。スタートしたら、まず前方のテーブルに用意された地図とコンパスを取り、チェックポイントの位置を確認する。位置は出場チームによって異なり、バラバラに散らばっている。


「こことここと……よし!」


 チェックポイントには、それぞれなぞなぞが書かれた紙がある。これが今回のレクリエーション要素だな。それを全て解くと一つずつ文字が得られ、並び替えるとある場所を示す。

 そこには旗が隠されており、その旗を持ってゴールへ向かう。一番先にゴールにたどり着いたものが優勝となる。以上が簡単なルールだ。




 さてと、まずはチェックポイントを巡ってなぞなぞの紙を集める必要があるが……そこは問題ない。


「千保、任せた」

「うん!」


 バッ!

 千保は能力を解放させ、森へと飛び込んだ。チェックポイントは島を覆う森全体に散らばっているため、全てを巡るには途方もない時間がかかる。そこで千保の出番というわけだ。


「千保ちゃんが戻ってくるまで、いつでも動けるように待機しとくわよ!」

「はい!」


 光さんの先導で森へ入る。他のチームはみんな一つになってチェックポイントを巡るようだが、俺達の場合は違う。全て千保に任せるのだ。彼女に能力で全てのチェックポイントを巡り、なぞなぞの紙を回収してもらう。


 大会規定には、チェックポイントを巡れというルールはない。つまり、誰か一人でもチェックポイントを通過していれば、それでいい。もはやオリエンテーリングと呼べるか危ういがな。


 とまぁ、少し卑怯な気もするが、こうでもしないと俺達に勝機はない。優勝を狙うには、初めのうちに他のチームと差を付けなければいけないのだ。




「お待たせ!」


 千保が戻ってきた。息を切らしながら紙を握っている。ご苦労様だな。少し休ませてやろう。なぞなぞを解くのは俺達の仕事だ。


「さてと、解くか」

「それにしてもなぞなぞなんて、完全にレクリエーションに成り下がってるわね」

「あ、それが……」


 俺達はなぞなぞの紙をめくり、問題を確認した。




問題:次の英文の空欄に当てはまる語句として、最も適切なものを下記の語群から選びなさい。


① I 【 】 the sight of my daughter in the crowd.


か:got き:lost く:brought け:took こ:left




 ……なんだこれ。


「なぞなぞというより入試問題だな」

「おかしいわね。大会規定には子どもでもわかるような簡単ななぞなぞが出題されるって書いてあったのに……」


 千保の持っていた紙は、どれも解くのが難解そうな複雑な問題ばかり書かれていた。なんでこんな難しい問題が出てくるんだ? せっかくなぞなぞを解く練習もしてきたのに。


「リッキー、わかる?」

「えっと……クソッ、高校の頃はこんな問題すぐ解けたのに!」

「私、高校の時成績あんまりだったから……」


 大人組は完全に頭を悩ませていた。とはいえ、現役高校生である俺でも解けない。だって学校の授業サボってたし。畜生! まさかこんなところで勉強してこなかったことを後悔するなんて。




「答えは『き』だよ」


 千保がペンで語句に丸をつけた。


「千保!」


 そうか、千保は俺と違って真面目に学校の授業を受けていた。どうやら成績もそれなりにいいみたいだ。


「この間まで期末テストの勉強してたし。これくらいなら私でも解けるよ」


 千保はスラスラと残りの問題を解いていく。なんて頼りになる奴なんだ。彼女には走ってチェックポイントを巡ってもらうだけのつもりだったが、まさか問題解答まで任せることになるとは。


 運動ができて頭脳も明晰。おまけに美人ときた。もう完璧超人だ。




「うっ、え……えっと、公式何だったけ……」


 千保の手が止まった。難しい問題にぶち当たったのか、ぶつぶつと呟いている。問題を見ると数学のようだ。

 うわっ……順列問題とか出てくんのか。俺の脳には理解不能だ。公式が何種類か出てくるし、そもそも数学だから計算がめんどくさい。千保も苦戦しているらしい。


「こういう時は……」


 千保の右目が赤く輝く。また能力を発動させたのか。すると、先程よりも千保の腕の動きが早まった。目にも止まらぬ早さで数式を書き込んでいく。


「おぉ……」

「能力で脳の神経細胞の働きを促進させたんだ。これなら複雑な計算も瞬時にできる」

「すげぇ!」

「解けた! 答えは『え』!」


 千保の能力は脳を強化して頭も良くすることができるらしい。そこまで強化範囲を細かく設定することも可能なのか。もう何でもありだな。羨ましい。

 だが彼女のことだから、学校の勉強では能力は使わないんだろうな。今回は優勝して宝玉を手に入れるためだから仕方ない。


「それで? なんて出た?」

「えっと……『き』『う』『え』」


 問題から導き出されたのは『き』『う』『え』のひらがな三文字。これらのヒントから、旗の隠し場所を探し当てなければいけない。


「この三つを並び替えるのか?」

「だったら『うえき』! どっかの植木うえきに隠されてるんじゃない?」

「でも会場に植木なんてあったか? ここにあるのは違うし」


 確かに、会場には植木らしきものは見当たらなかった。森にあるのも自然に生えた木ばかりだ。ここからは自分達で動いて旗の隠し場所を特定しなければいけない。


「クソッ、どこにあるんだ……」






「おやおや、苦戦してるみたいだね♪」


 この浮わついた腹立たしい声は……




「拓馬君!」

「千保ちゃん頑張ってるね~」


 拓馬達率いるチーム『アルフェリーチェ』だ。茂みの奥から出てきた。


「僕達は今から旗の隠し場所に行くんだ」

「もう突き止めたのか!?」

「あぁ、君と違って僕らはココが違うんでね♪」


 拓馬は自身の額をツンツンと指でつつき、キザな態度で見下してきた。奴の台詞と態度の一つ一つが、俺の堪忍袋を刺激してくる。ウゼェ……このクソ野郎が……。


「じゃあ、精々頑張ってくれたまえ♪」


 拓馬は自分の問題の紙をその場にばらまいて、森の奥へと走っていった。どこまで俺達を馬鹿にするつりなんだ。あいつの存在が心底ムカつく。

 だが、あいつらが俺達より勝っているのは事実だ。こんな短時間で全てのチェックポイントを巡り、問題を解いて旗の隠し場所を突き止めたのだから。頭脳も運動神経も何一つ敵わない。




「あぁ!」


 光さんが拓馬のばらまいた紙を見て叫ぶ。


「どうした?」

「見てよこれ!」


 俺達は光さんの示す紙を覗き込む。




問題:以下のなぞなぞの答えとして、適切なものを語群の中から選びなさい。


②ハムがなる木ってどんな木?


さ:ウメ し:サクラ す:マツ せ:タケ そ:イチョウ




「他のチームはちゃんとなぞなぞになってるじゃない!」

「マジかよ!?」

「ちなみにこの問題の答えは『す』だよね」


 俺達は問題の難易度の低さに驚愕した。何だよ……俺達は高校レベルの難しい問題出されたのに、あいつらはこんな簡単ななぞなぞかよ! 多分俺達以外のチームはこういう簡単ななぞなぞが用意されているのだろう。


 おかしい……こんなの不公平だ。


「えっと……『す』『な』『は』『ま』。拓馬君達は砂浜に行ったみたいだね」

「呑気に他のチームの問題解いてる場合かよ」


 千保は拓馬のばらまいた紙を集め、なぞなぞを解き始めた。そんなことしても無駄だ。チームごとに出される問題は違うし、旗の隠し場所も異なる場所に決められている。俺達は俺達の旗を探さなければいけない。


「クソッ、どうなってるんだこの大会……」


 あまりに不公平な戦況に、俺達は困惑した。このままでは拓馬のチームに優勝をかっさらわれてしまう。一体どうすれば……。


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