第19話 憧れ
「そう言えば、さっきの"こうどのもん"? や爺ちゃんが普段行っている迷宮ってどんな所なの?」
俺は、祖父に迷宮について、詳しく問いかける。
「うん? あぁ、そうかリオは、迷宮について詳しくは知らないのか……俺がさっきまで採掘していた迷宮は、[Dランク鉱土(こうど)の門]って言ってな」
「Dランクの迷宮かぁ」
「おう! 鉱山地帯や岩に囲まれた迷宮で、色々な鉱石の採掘が出来るんだ。う〜ん……なんつ〜か〜な? 例えば、全身を色々な金属や岩で、出来て動く巨人をゴーレムって言うんだ。そいつらが、わんさか居たり、鉱山が沢山あったり、する迷宮だな!」
祖父は、両腕を胸の前で組む。そして、頭を軽く上に向けて思い出しながら説明する。
「ゴーレムっ!? なんか強そうだね! どの位の大きさなの?」
俺は、異世界の魔物について、とても興奮していた。その場で両腕を後ろに引いた。
「個人差によるが、大体7,8m位だな。Dランクになったばっかの冒険者でも、大体は避けられる位の速度で動くが……まともに一撃でも喰らった日には、死ぬなぁ。
だって、アイツら群れで動くし、足を止めたら殴り続けるしな」
「えっ!? そんなに強いの!? ゴーレム怖っ! それじゃあ、爺ちゃんは、いつも何処の迷宮に冒険しに行っているの?」
俺の頭の中の想像の範囲内で、思い浮かべた状況に恐怖しながらも、興奮は収まらなかった。
「俺が普段冒険しているのは、[Bランク熔海(ようかい)の門]と言う迷宮だ」
「"ようかいの門"? そう言えばDランク迷宮も門って事は、迷宮の入り口が門って事? それに、爺ちゃんはBランク冒険者なんだね! Bランクって高いの?」
俺は、祖父の説明に、自身の考察混じりで質問する。
「おう! 冒険者にはSABCDEFGHIの10段階にランク付けされるんだ。Sランクが最高ランクで、Iランクが最低ランクなんだ。俺はBランクだから上から3番目に高い冒険者だ。
ギルド長が言うには、確認されている限りで、大体上位3%にいるんだ! スゲーだろ!」
祖父は胸を張りにんまりと笑う。
「(ギルドランクが、分かりやすくて良かった! 正直最高ランクがSSSランクとか S+ランクとか言われた日には、絶対に混乱する気がする)」
俺は頷きながら、爺ちゃんに思ったことを素直に聞いた。
「うん、すごいと思うけど、イマイチその凄さがよく分からないんだ……ごめんね、爺ちゃん」
「(凄さをイマイチ理解できないのは、仕方ないと思うんだ……。だって、前世の小説知識では、大体Cランクでベテラン扱いな小説が多かった。この世界におけるBランクの扱いは、一体どんな感じだろうか?)」
俺はイマイチ素直に喜べず困惑する。ここにきて、趣味だったラノベ知識が邪魔になるとは夢にも思っていなかった。
「ははっ、正直で良し! 大体、冒険者はHランクで一人前扱いされる職業なんだ。Gランクも行けば立派なベテラン扱いなのさ。
冒険者全体のおよそ9割がI〜Fランクを占めているんだが……それを踏まえると、俺のいるBランクは、かなり高い位置にいるんだ。これで理解できたか?」
「えっ!? そんなに高いの!? 凄いよ爺ちゃん!」
祖父は、最早高いという話を超えて凄い位置に居た為、俺は再度興奮に火がついた様にはしゃぐ。
「はっはっはっ! いや〜孫に褒められるとはこんな気分なのか! 良い気分だぜリオ、俺をもっと褒めろ! ちなみにお前の両親も高ランク冒険者でEランクにいるんだぜ。誇ると良いぜ、Eランクも中々なれるもんじゃねぇからな」
祖父は、満面の笑みで照れながらも楽しそうだった。
「父ちゃん達がEランクって事は知らなかったけど、なんと言うかさ……俺にとって憧れ……なんだよね」
「そうか。それなら今のうちから努力しないとな。それと、もう一つ俺達の冒険者のランクについて付け足して話しておくぜ」
「お願いします!」
「おう! この世界には10個の迷宮があるってな。それぞれの迷宮には出入り口として繋がる門があるんだ。10個の迷宮には対応したランクがあって、それが冒険者のランクになっているんだ。」
「えっ? 迷宮って10個しか無いの? でも、父ちゃんはアローゼンには、確認されている中で18箇所あるって言っていたよ。」
俺は父と祖父の情報に困惑する。
「それは言い方が悪かったな。確かにアローゼンだけでも18箇所、世界全体で30箇所以上ある。しかし、それは出入り口がそれだけあるって事なんだ」
「出入り口が30箇所?」
「そうだ。そんな訳で繋がっている迷宮、この場合は繋がっている異空間は10個しか無いんだ。」
「10個の異空間に対応する10個ランクって事?」
祖父から突然告げられる規模の大きな話に、俺はさっきまでの興奮は収まり、少し呆然とする。
「そうだ。それだけ迷宮世界は、広大なんだ。それこそ馬鹿みたいな話だが、この世界の中に10個の世界が、あるみたいな感じなんだ」
「それじゃ、やろうと思えばアローゼンの門に入って他国の門から出たら、他国に不法入国出来るの?」
「(迷宮内に出入り口があると言う事は勿論、探せばワープや転移に近い事が、できるんじゃね?)」
「不法入国なんて難しい事良く知っているなぁ。その答えは、"出来ない"だ。理屈はよくわかっていないんだが……俺も過去にここの門から入って、他国の門を見つけてから出たことがあるんだ。
そうしたら、それで、出た先は他国ではなく、ここアローゼンで入った門の前だった」
「えっ? 試したの? 危なくない?」
「おう、若い頃だから、かなり昔な? そんで、他の出口からも試したんだ。でも、どこの門から出ても結局は入った門に出てしまうんだ。まぁ、あまりにも広すぎたから3、4箇所やって検証は辞めたがな」
祖父は俺の質問に出来ないと否定する。
「へー! そうなんだぁ。」
「それで熔海の門になるんだが、溶岩地帯って知っているか? 活火山にある石や土が火の熱で溶けた場所でな。その周囲は、とんでもなく暑いところだ!」
「うわぁ……暑いところは嫌いだなぁ」
「俺も嫌いだな。その迷宮は、周囲が暑すぎて溶岩の海があるところなんだよ。でも、そこには火に耐性がある魔物や万能薬の材料になる植物や鉱石など様々あるんだ」
祖父は心底嫌そうに顔を顰める。
「火耐性がある魔物って言うと……どんなのがいるの?」
「話は変わるが、リオは英雄や勇者とかの物語を聞いた事はあるか?」
祖父は俺の質問に顔色を変えた。
「あるけど……なんで?」
俺は、最初に祖父と会った時の様な空間にかける圧力がヒシヒシと感じ、顔が強張った。
「そうだな、熔海の門はドラゴン系統の魔物しか出ないんだ」
祖父は、好敵手を思い出す様に笑っている。でも、俺にはその笑みが笑顔とは真逆に見えた。
「………」
俺は、自分でもなんて表情をしているのか、判断が出来なかった。心の奥底では、英雄譚に出てくるドラゴンに会ってみたいと興奮している。その反面、そんなのに勝てるわけないと恐怖していた。
「これでも俺は"龍狩りのアラン"なんて呼ばれてんだぜ。まぁ、情報規制があるから、今の若者共には、知られていないんだがな」
「………スゲー。爺ちゃん、俺も成れるかなぁ。俺にもそんな冒険が出来るかなぁ」
俺は長い沈黙の末にふと言葉が出た。
「そいつは、孫とは言え"出来る"って無責任に言えねえなあ。今のままなら、まず間違いなく到達前に死ぬ。Iランクすら難しいだろう。
だがな、リオ、努力して自分を信じてやってみねえと未来なんか分かんねえんだよ。少なくても俺は、そうして来て、ここまで来た。」
祖父は、冒険者として、これまでの積み重ねたものを言葉にした。
「爺ちゃん……」
俺は祖父の言葉の重みに、言葉を失う。
「どうするか、どうなるかはお前次第だって事だ、リオ」
「……うん、俺は、やって見せるよ。俺も爺ちゃん達みたいな俺な冒険者を目指してみるよ」
俺は取り敢えず成れるかどうかは別として、気持ちだけは前を向いていたかった。
「さてと、長々と話し込んじまった。仕事中に悪かったな、リオ。両親に許可を貰ったら鍛えてやるから、覚悟しておけよ」
祖父はニカッと笑う。
「うん。爺ちゃん、ありがとう。その時はよろしくね」
俺も祖父に負けない様に、ニカッと笑い感謝する。
「おう! 仕事頑張れよ。みっちゃん! ただいま〜戻ったぞ〜!」
「あっ! あっくん! お帰り! お仕事お疲れ様! ねぇねぇ、あっくん、あっくん! 私達の孫のリオ君が居るんだけど会った?」
「おう! さっきまで入り口で話し込んでいたわ。」
俺は今日も仕事を行なった。
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