第18話 冒険者アラン

 アルバイト10日目のヘビのツキ・17日・ドウギのヒの昼少し過ぎ。この時間は、祖母達職人の休憩時間なので、客入りが少ない。


 稀に緊急の修理で、来る事も有るそうだが、今の所会った事はない。また、流石に10日目になってくると挨拶と掃き掃除に緊張はなく、大分慣れてきたと実感する。


 しかし、そんな中で、これまで来たどの冒険者よりも圧倒的な存在感や威圧感の様なプレッシャーを放つ、短髪で白髪、蒼い瞳、筋肉質のおじさん男性が、俺に近づいてきた。


「こんにちは! いらっしゃいませ!」


 俺は、ジレンを思い出す。見た目で勝手に怯えて、相手を傷つけても仕方ないと思い、目の前の人物に負けない位の大声で挨拶をする。


「おう! こんにちは! はっはっは! いや〜元気が良いな〜お前さんが、俺の孫のフィデリオか! ガキの頃のアモンに面影が、しっかりあるな」


 目の前の人物の正体は、どうやら俺の祖父だったようだった。祖父は笑いながら、大きくゴツゴツした右手で俺の頭を少し乱暴に撫でた。


「うわっ! えーっと? っと言うことは、貴方は俺の爺ちゃんなの?」


 俺は困惑しながら、首を傾げて尋ねた。


「おうとも! 俺の名前はアランだ! よろしくな、フィデリオ」


 祖父は、右手の拳で親指だけ立て、それを自身に指差しながら挨拶をする。


「よろしくね、爺ちゃん! 俺はみんなから"リオ"って呼ばれてあるから、良かったら爺ちゃんもそう呼んでよ!」


 俺も祖父に習い同じポーズで挨拶をする。


「"リオ"な。んじゃ、俺はジジイでも、爺ちゃんでも好きに呼ぶと良いさ。よろしくな、リオ」


 その後、祖父アランは、背負っていた袋や武具を地面に下ろし、立ち話をした。


「そう言えば、アラン爺ちゃんは、今まで何処に行っていたの?」


「あれ? みっちゃんから聞いてないのか? 鍛治に使う魔鉱石を[Dランク鉱土(こうど)の門]から、採掘しに行ったんだ。みっちゃんが、作る武器に必要な鉱石は、基本的に市場に回らねぇ。だから、こうして定期的に俺が、採掘しに行くんだ」


「ん? みっちゃん? 爺ちゃん"みっちゃん"って、婆ちゃんの事?」


 祖父の突然の"みっちゃん"呼びに、一瞬誰だの事だと思った。しかし、話の流れ的に祖母だと気が付き、念の為確認を入れた。


「おう! なんつうか、俺ら夫婦間での呼び名でな。夫婦やる前の冒険者時代から、ずっとこの呼び名なのさ」


「へぇー! 仲良しだね!」


「おう! んで、夫婦になってから、改めて互いに名前呼びしたんだが……違和感拭えなくてな……。もう、今まで通りで良いやって、なったんだよ」


 祖父は、何処か恥ずかしそうに照れながら、右手で頭をかいた。


「そう言えば、アラン爺ちゃんは大金槌を背負って居たけど……採掘の為に持って行ったの? それとも、爺ちゃんの武器が大槌なの?」


 俺も仲良し夫婦な爺ちゃんをみて、何となくこそばゆい感じがした。しかし、祖父が背負ったハンマーを見て、一気に興奮に火がついた。


「どっちもだな。俺の主力武器は、ハンマーだ。但しこれは冒険用のハンマーでは無く、採掘兼自衛用ハンマーだ。昔良く使った[ミスリク]と[オリハルク]って言う鉱石の合金で、出来ているんだ」


「ミスリク!? オリハルク!? なんか凄そう!」


「おうよ! どっちも見た目よりも軽くて、魔力を流しやすい特徴で便利なんだ。だけど、俺が普段冒険している迷宮だとイマイチ硬さが足らなくてな……だから、こうして再利用しているんだ」


 祖父は、右手一本で軽々と持ち上げる。ハンマーを地面に置いた時、ドスンッと重そうな音をするハンマーに見えたが、祖父には物足りず、少しだけ残念そうだった。


「(爺ちゃんの大金槌と言うのか……この世界でも"槌"は"ハンマー"って呼ぶみたいだし、これからはハンマーで統一しよう……大金槌って言いにくいし)」


 改めて、祖父のハンマーを見ると、全体的に青白い見た目だ。頭の部分が三角柱になっている特徴的なハンマーだった。


「ヘェ〜あっ! そのミスリク? オリハルク? ってどんな特徴の鉱石なの? あと、そのハンマーには名前とかってあるの?」


 俺は新しい物に、興奮して祖父に詰め寄る。


「まてまて! ミスリクって言うのはな、軽くて魔力伝導率が高い鉱石でな。その分、耐久値が低くい鉱石なのさ」


「えっ? 低いの? それって黒魔鋼よりも?」


 俺が現在知っている中でも硬い金属を例に取り出し質問する。


「そんな事はねぇ。低いって言っても[青魔鉄]や[黒魔鋼]よりも硬い。だがな、ランクが上の迷宮には足らなすぎるんだ……まぁ、だから合金に向いている金属なんだ」


「そうなんだ」


 青魔鉄や黒魔鋼と言う金属は、俺も知らない。ただ、祖父が言う感じだと、普通の鉄や鋼よりも圧倒的な硬度がある様に聞こえる。俺は今、話されても理解できない事が多い為、青魔鉄などの解説を求めなかった。


「おう。次は、オリハルクについてなんだが……ミスリクよりも硬く、ミスリクの次くらいに魔力伝導率が、高い金属なんだ」


「えっ? それじゃあ、なんでミスリクと合金にしたの? オリハルクだけにした方が、良かったんじゃないの?」


「そうなんだけどな……オリハルクは、採掘場所や量が少なくて、あまり採掘出来ない鉱石でな。このハンマー"青牛の角"って言うんだが、作った当時ハンマー1本も作れないほど少なかったから、合金にしたんだよ。」


 どうやら、オリハルクは希少性が、高い金属のようだった。


「そうなんだ〜それにしても"青牛の角"って名前の由来ってあるの?」


「なんだ、リオ、やけにこのハンマーに興味があるじゃねえか」


 祖父はニヤッっと笑う。


「そうだよ! 俺さ、将来は父ちゃんや母ちゃん、爺ちゃん達みたいな冒険者になりたいんだ! この前、婆ちゃんから貰ったこの祝福もハンマーだから結構好きなんだ!


 適性とか分かんねぇけど、上手く使えたら武器をハンマーにしようと思っているんだ!」


「はっはっは! そいつは嬉しいな〜。俺の時代は、ハンマー使いがそこそこいたんだが……今の時代の冒険者は、ハンマーに興味が薄くてな……。少し寂しさを感じていたんだ」


 祖父は笑うが少し力が、なさそうな苦笑した。


「そこで爺ちゃん! 俺にハンマーの使い方を教えて欲しいんだ! それと冒険中に武器の整備とかしたいから婆ちゃんにも鍛治を教えてもらおうと思うんだ! どうかな?」


「おう、いいと思うぜ! だが、武器修練と言うか冒険者の訓練は両親に、鍛治はみっちゃんにしっかり許可をもらう事が条件だ。それなら、お前が冒険者になるまでに、ハンマーの使い方を叩き込んでやるよ」


「ありがとう! 爺ちゃん! 今度、父ちゃんや母ちゃん、婆ちゃんに聞いてみるよ!」


 俺は、戦闘の師匠になるかも知れない祖父と約束した。

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