第17話 フィリップ・ガラスバード
アルバイト7日目のヘビのツキ・13日・ユウキのヒの開店して直後くらいの事だった。
「おはようございます、アミラーシアさん。いつものが欲しいのですが、宜しいでしょうか?」
店の前で掃き掃除をしていると、馬車を連れた、冒険者風の男性客が来た。
その人は、黒い兜被り、甲冑では無く両腕、両足、胸、腰回りを黒色の部分的に装着ししている。腕の袖が、少し足らない緑色のコートに身を包んだ。
その左腰骨付近には、ベルトに吊るされている片手剣を所持している。そんな、格好をした優しい声の白髪の青年が、お店に入っていった。
「うふふ。ええ、お待ちしておりましたわ、フィリップ様。少しお待ち下さい、準備致します」
フィリップと呼ばれる冒険者は、どうやらこの店の常連ようだ。アミラも慣れた手つきで、物を取りに店の奥に行った。
「お待たせ致しました。こちらの樽に入った魔銅の剣5本、魔銅の槍5本、魔鉄の剣5本、魔鉄の槍5本。小計金貨32枚になります。3樽分を御所望ですので、合計金貨96枚になります。ご確認をお願いします」
アミラが持ってきた樽の中には、布に包まれた武器達が入っていた。その樽を、フィリップの前に3つ持って置いた。
「………。はい、確認しました。では、金貨96枚です」
フィリップと呼ばれる青年は、3樽に入った武器を一瞥するだけで、触らず確認した。
「(恐らく……前世のゲームで言う鑑定スキルの様なものを持っているのかな? どうやったら手に入るのだろう? ぶっちゃけ憧れがあるし、とても欲しい技能だ!)」
馬車に武器の入った樽をしまった後に、ふと俺と目が合った。
「アミラーシアさん。失礼ですが、こちらの少年は? ミンク様の新たなお弟子様なんでしょうか?」
フィリップは、笑顔を絶やさずアミラに俺について質問した。
「(そして、いつもの如く、婆ちゃんの弟子扱いに感違いされている……。まぁ、まさか婆ちゃんの孫が、客引きと入り口の掃除をしているとは、思わないか)」
「うふふ、いえ、弟子ではございません。この子は、師匠の孫に当たるフィデリオにございます。8日前からこの店の掃除と接客を行います。今後とも、よろしくお願い致します」
アミラは、そう言うと頭を下げた。その為、続けて俺もフィリップに自己紹介を行なった。
「フィリップ様、初めまして! お、わわ、私はミンクの孫のフィデリオって言います! よ、よろしくお願いします!」
俺は、早速名前と顔を覚えてもらう為にも意気込む。しかし、見た目に反して、何処となくリドやライザル達のような感じとは、違った雰囲気がある。無意識に緊張してしまい、上手く話す事ができなかった。
「ええ、フィデリオ様。私はフィリップ・ガラスバードと申します。こちらも、よろしくお願い致しますね」
しかし、彼は、頭の兜を外し、馬鹿にした表情もなく更に優しい笑みを浮かべ、自己紹介を行なった。
「(フィリップさんは、[ガラスバード]って言うファミリーネームを持っていた? この世界では、ファミリーネームを名乗る人は、大抵が貴族か権力者だって聞く……と言う事は、この人って、マジモンの貴族?)」
「あっ、あの〜聞きたい、お聞きしたいことがあるのですが……フィリップ様は、御貴族様なんでしょうか?」
彼が、貴族かも知れない可能性に、身体が緊張して縮こまる。
「いいえ、私は、貴族ではありませんよ。私は、ガラスバード商会、商会長の息子です。と言っても私は、三男ですので特に権限らしい物はございません。だから、そう怯えないでください」
フィリップさんは、貴族である事を否定する。そして、怯えている俺を見て、右指で右頬を掻きながら苦笑した。彼は貴族では無かったが、予想以上に凄い人だったと思い、驚愕する。
「(いや、正直言ってガラスバード商会ってどれだけの規模の商会なのかは分から無い……でも、情報手段が限定されているこの世界では、間違いなく商人とコネクションを結ぶことに損はないと思いたい……。
しかもだよ、王都で長年商売をしている婆ちゃんの店の常連さんなら尚の事に間違い無い! その筈だ!)」
思考に耽っている俺を見て、困っていると勘違いしたフィリップは話を続けた。
「なので、無理に丁寧な口調で話さなくて良いですよ、フィデリオ様」
「い、いえ、お客様であるフィリップ様がお、わ私に丁寧に話、お話されているのに、私だけいつも通りは失礼かと」
「確かに、その通りですね。う〜ん、困りましたね……私の口調は、職業柄の癖みたいなものです。気にしないで下さい……っと言っても、やはり気になりますよね」
俺とフィリップは互いに困った。俺は店の看板に泥を塗るような真似はしたくない。フィリップは稚児に年相応の接し方を望んでいる。しかし、商売人として俺の言っている事は、一理あると思っている。
そして、悩んだ末にフィリップは、何か思いついた様に頷いた。
「うん、そうですね。それでは、フィデリオ様、私と友達になりましょう。友達なら言葉遣いを崩しても関係ありませんでしょう? 如何でしょうか?」
フィリップは、まるで、名案でも思いついたかの様に頷き提案する。
「(その発想は無かったなぁ……あっいや、寧ろ俺としてはありがたいから良いんだけどさ……。無理に丁寧に話すのってとても疲れるから、あまりしたくないんだよね。
今は特に、身体が幼くなったから、精神疲労は余計に感じてしまうから、本当にね)」
「い、良いんすか! ありがとう! フィリップさん」
俺は少し困惑したが、笑顔で感謝しお辞儀をする。
「ええ。どういたしまして……は可笑しいですね。改めて、フィデリオ君よろしくね。」
「こちらこそ、よろしく、フィリップさん」
俺達は、互いに握手をした。
「(まぁ年は15〜20歳位離れているし、相手が俺に気を使ってなってくれたからものだ。だから厳密には、本当の友人ではないと思う。それでも、友達は友達なので、今日一日で良い滑り出しだ!)」
フィリップは、荷馬車を引いて出発した。正直、商会長の息子が、護衛もなしに荷馬車を引いて仕入れをするのも不思議な感じた。
しかし、見た目とても強そうだし、何か事情があるのだと思った。フィリップが出発した後、俺は掃除をしながら兎に角大声で挨拶を行なった。
この世界なのか、イシュリナ特有かは分からないが、周囲の客引きの挨拶を聞いていると、大抵が隣の店の野次が含まれた売り文句である。
聞いている側としては、あまり良い気はしない。下手すれば強引な客引きをして、巡回中の騎士に厳罰注意を受けている人も見かけられた。
しかし、客観的に見ても俺は、元気の良い子供と見られている。そして、挨拶された側もそんなに悪い気がしていない様だった。客層もお金の無い冒険者もいるが、多くはある程度お金と心に余裕が、ある冒険者が多い気がした。
「(まぁ、言葉遣いが悪い人やアミラさんをナンパしている人などはいる……アミラさん美人だしね。でも、アミラさんも軽くあしらっているから、アミラさんとその人の挨拶みたいなものだ。こういうの何というか……良いなぁって思うんだ)」
俺は全7日を通して、挨拶をしている時に気がついた事がある。俺は、異性よりも同性か、年が離れている人に可愛がられる事が分かった。
男性冒険者には、元気が良いと褒められる。妖精種と思われる耳が少し長い、若い高齢者感ある人には、長寿の会の影響か良くお菓子を貰えた。
しかし、若い女性には、あまり評価が良く無い様だ。無視される事や挨拶を返されても素っ気なさがあったり、相手にされなかった。
「(流石に4日目の時みたいに鼻で笑われたり、怒鳴られたりは無かったけど……何でかなぁ? 容姿の問題か? それとも年相応の子供っぽさか?
あっそう言えば、婆ちゃんや母ちゃん、ライザルさん、フィリップさんなど容姿が整っている人たちが、多いような気がする……でも、それって関係あるか? よく分かんないなぁ)」
俺は頭を傾げながらも、与えられた仕事をこなした。
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