第20話 スタートラインに立つ為に

 アルバイトを終えた俺は、父と母に迎えに来て貰い夕食を食べてた。その後に俺は、祖父アランからの提案について、許可を得る為に両親へ相談してみた。


「父ちゃん、母ちゃん。今日ね、婆ちゃんの店の手伝いの時に、アラン爺ちゃんが帰ってきたんだ」


 俺は、まるであの時の興奮を思い出すかの様に話す。


「へぇー、父ちゃん帰ってきたんだぁ。明日、リオを預ける時に挨拶をしなくちゃなぁ。なぁ? 母ちゃん」


「そうね、お義父さんに挨拶しようね。教えてくれて、ありがとね、リオ」


 両親は、お互いに顔を合わせながら、明日の打ち合わせを行う。


「うん。それでね、爺ちゃんが冒険者を目指すなら鍛えてやるって言ってくれたんだ。父ちゃん、母ちゃん俺さ冒険者に成りたいんだ」


 俺は少し恥ずかしそうに両親に伝える。


「そうかぁ。まぁ、そうだよなぁ」


「ええ、そうね」


 父は頭に、母は顔に、手を当てながら、納得したご様子で互いを見て頷いた。


「リオ、俺達が、お前に冒険者を目指す事を反対はしない。現に俺達も、その夢を追いかけているから、むしろ、言える立場では無いからな」


 父は少しだけ申し訳なさそうに言う。


「でもね、リオ。これだけは、理解して頂戴。冒険者を目指すって事は、とても辛い事よ。私達は、常に死ぬ事と生き抜く事を頭に考えて、冒険者をしているわ」


 母も父と似た表情だけど、とても辛そうな表情を浮かべている。


「確かに冒険者は、俺の父アランの様な、物語の英雄譚にある出来事はある。でもなぁ、俺達が魔物を殺す以上に、魔物も俺たちを殺そうと躍起になるんだ。リオには、その決意が出来るか?」


 父アモンと母アーシャは、いつも以上に真剣な表情で、どれだけ冒険者業界が、大変な世界なのか伝えた。


「正直、分かんない。多分、本当にその時になって見ないと覚悟があるとか、持てるとか分かんない。けどさ、俺は父ちゃんや母ちゃん、爺ちゃんに憧れちまったんだよ。


 "俺もこんな冒険がしてみたい!"ってね。確かに傷つくのも……傷付けるのも……死ぬのも……それ以上に怖いよ。だからさ、正式に冒険者になる時まで、爺ちゃんに鍛えて貰いながら覚悟を身につけるよ。それじゃ……ダメ……かな?」


 俺は、今覚悟しているって言っても、口だけになりそうだと思った。確かに、約束を取り付けるための方便、その場凌ぎなら覚悟していると言った方が、正解だろう。


 しかし、それは、2人の先輩冒険者に対して、不誠実と思う。俺は、俺の心に思う気持ちを素直に両親へぶつけた。


「いいや、リオ、そんな事はないぜ。むしろ、"覚悟している"って、即答された方が心配だったさ。なぁ? 母ちゃん」


 父は、不安そうな表情の俺の頭を撫でる。そして、笑い掛け母の方に顔を向ける。


「そうね。でも、私達の話をちゃんと受け止めてくれるなら大丈夫じゃないかしら? アンタ……私は、リオが冒険者を目指す事、お義父さんに鍛えてもらう事に賛成するわ」


 母も父と目を合わせ頷き、修業の許可を出す。


「俺も賛成だ。今の内から、父ちゃんに鍛えて貰えるなら俺達も、安心して迷宮に行けるってもんさ。お互い、頑張って行こうな? リオ」


 父と母は、俺が祖父に鍛えられる事と、冒険者を目指す事に賛成してくれた。


「ありがとう、父ちゃん、母ちゃん。俺、頑張ってみるよ。」


 俺は安堵した表情から、笑顔になり両親に感謝した。


「そう言えば……父ちゃんと母ちゃんってEランクで凄いんだね」


「おう」


「ありがとね、リオ」


 両親は、少し照れていた表情で返事を返す。


「爺ちゃんはE〜Sランクの冒険者が1割しか居ないって言っていたけど……実際Eランク冒険者ってどのくらいいるの?」


「ん? 1割? あー父ちゃん、間違いじゃないけど説明不足だなぁ」


 父は首を傾げると右手で、自身の後頭部を掻いた。


「えっ? 違うの?」


 正直、情報が錯誤して訳がわからなくなりそうだ。


「違くは無いわ。ただね、1割と言うか数字は、過去の冒険者の数を含めた数字なのよ」


 母は左人差し指を立て、俺と目を合わせながら、不足分を付け足し説明する。


「つまり、寿命なり戦死なりして、死んだ冒険者も含まれるって事さ。今、生きている冒険者でEランク以上は、それよりももっと少ない人数しか居ないさ」


「………えっ? 本当に?」


 どうやら俺の憧れの人達は、俺が考えていた遥か先にいるらしい。父の言葉を聞いた俺は、あまりの目標の高さに言葉を失う。俺が、目指すべき場所について考えていると、母は説明を続けた。


「リオ、前にパーソナルボックスの話をしたのだけど、覚えてるかしら?」


「うん。覚えているよ」


「それなら、簡潔に言うわ。パーソナルボックスの情報って、ギルド創設時から載っているのよ。ギルドに行けば、死亡して50年以上経過した情報を自由に閲覧出来るのよ。


 ギルドは、創設されてから組織形態が変化しながらだけど、その歴史は1200年は経過しているわ」


「………」


 俺はギルドの圧倒的なまで歴史に慄く。


「勿論、リオが冒険者になっても、直ぐにはこの情報は閲覧は出来ないさ。何故なら、冒険者に成ったばかりでは、ランクが足りないからだ。この閲覧機能は、Eランク以上の特権なんだ」


「えっ? そうなの? 王様とか貴族とかでも見れないの?」


「おう! 例え王族や大金持ちでも、ランクが足りなきゃ見れねぇから、覚えておくと良いぜ、リオ。それにな、そもそもFランク以下は、この権限自体を知らないし、ギルドも積極的に教えようとしていないからな」


 父は少しだけニヤッと笑いながら説明する。


「はぁ〜凄いんだねー。でも、なんで、パーソナルボックスの情報閲覧がEランク以上の特権なの? 死んだ人のを見たって仕方がなくない?」


 俺は、身分証明書としてしか利用できない物を見て、どうするのかと眉を潜めながら、疑問を呈した。


「そうでもないぞ。例えば、特殊職業の取得条件やその職業技能の効果、耐性系技能の上昇率や発現から見える考察など、多くの情報を得ることが出来るんだ。」


 俺の質問に父は首を横に振り説明する。


「情報?」


 俺は首を傾げる。


「そうよ。普通は、自分たちの冒険の知識や経験などの情報は、秘密にされるものなのよ。それこそ、師弟関係や親子関係など、親しい間で共有されても、赤の他人には公開しないわ」


「そうだ、リオ。例えば、俺の父ちゃんが冒険している熔海の門を例にするぞ。あそこに行っていた先人達は、皆揃って火耐性や熱耐性などが、他の耐性に比べて突出して上昇しているんだ。


 もし、何も情報がない状態で行って行ったら、耐性の足りなさやその環境に戦闘の支障が出る。それが、原因で死ぬかもしれない」


「確かに、そうだ」


「それが、何らかの対策を用意していたら、生存率はグッと上がるのであれば、とても便利だと思わないか?」


 両親は何度も頷き答える。


「分かったよ。ありがとね。父ちゃん、母ちゃん」


「いいって事よ。リオ、良い冒険者になれよ」


「私達も、先輩としてあなたの行く先で、待っているわ」


 俺は、再度両親に感謝を捧げ、自分の夢へと歩き出そうとした。取り敢えず今日の日課を済ませて、明日から頑張ろうと思った。

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