第15話 アルバイト初日

 俺は朝日が昇る前の早朝に起きた。


「(最近、気がついた事ではあるが今世は、割と早寝早起きが出来ている気がする。前世でも、若い頃は割りかし出勤時間が早くて、慣れていたけど……無茶苦茶辛かったからなぁ……。


 今の所、苦じゃないから、凄く良い気分だ。やっぱり、スマホ無いから、やれる事が必然的に無くなったって、早寝早起きが成立したって事かな……?)」


 それにしても、早すぎるのは、前世と比べてやれる事が無い。だからこそ、日課の祈祷を行う。何時もなら父とランニングを行なっていた。しかし、流石に疲れているだろう父と母をこんな時間に起こすのは、とても気がひける。


「(女神イシュリナ様……今日も両親や婆ちゃん達と無事に1日を過ごせますように)」


 祈り方が正式な分からない俺は、取り敢えず膝立ちを行い顔の前で両手を合わせて祈った。祈りは、心の所作だと言う。だから、やり方はどうであれ、思いが重要なんだ。


「(時間があった時に、神殿に行って正しい祈り方を学ぼう行くか……間違っていたら失礼だし。マジで、天罰とか怒ったら、それこそ怖えし)」


 雑念があったものの、俺は祈りが終わらせた。その後、二度寝するのは勿体から、魔力操作を行う。体感で1〜2時間行なっていると両親が起き出した。


「おはよう、リオ。今日も早いな〜あぁ〜っ! はぁ〜。んじゃ、走りに行くか。母ちゃん、リオと走ってくるわ」


 背伸びをする父は、意識を覚醒しランニングの準備をする。


「おはよ〜う。うわぁ〜ぁ。久しぶりだね〜この疲労感は。リオもアンタもいってらっしゃい。気をつけてね〜」


 母も欠伸をして少し寝ぼけていて、珍しく口調も伸びていた。いつものツンッと釣り上がった目が、トロンっと垂れ下がっている。そんな母が、いつもよりも何処か幼く見えたのは、きっと気のせいだった。


「父ちゃん! 今日から、走る場所を婆ちゃん家までの道にしたいんだ!」


「お、おう……それは、別に良いが、急にどうしたんだ?」


 俺の提案に父は不思議そうに振り向く。


「俺が、婆ちゃん家まで1人で行けたら、何かと便利だし、俺も早く道を覚えたいんだ」


 王都イシュリナは、治安が良い方らしい。しかし、それでもスリは、兎も角として人攫いは稀に噂を聞く。俺は、両親に心配をかけたく無い反面、何かあった時の避難地が欲しいと言う恐怖心の両方があった。


「そうか〜。毎度の事、気ぃ遣わせて悪いな〜。良し! んじゃ行くか〜」


 父は俺の気持ちを察したのか謝罪する。そして、俺達は、祖父母宅まで走る。結局、家から婆ちゃん家まで1人で往復は出来なかったが、片道までなら走れた。その為、帰り道は、無理せず家に歩いて帰った。


「母ちゃん、ただいま!」


「お帰り、朝ごはんもうちょっとで出来るからちょっと待っていてちょうだい」


「おう。母ちゃん、ただいま〜。んじゃ、俺は今日の準備でもしてるわ」


 父はそう言うと冒険者の準備をしていた。その後、朝ごはんを食べて今日も両親ともに祖父母宅に向かった。両親は、祖母ミンクに俺を預けて仕事に行った。


「リオ君、おはよう。今日もよろしくね。と言っても私も作業場にいるから、何かあったら呼んでね」


「うん。おはよう、婆ちゃん。う〜ん……婆ちゃん、俺にも何か手伝える事ない? 店の掃き掃除でも水汲みでも出来る事なら何でもやるよ」


「(家にいてもやる事って言えば、修業しかないんだよな……修業も良いんだけど今は、実際に人と触れ合った方が後々の経験になると思うんだよね。


 特に、この世界やこの街についてもっと知れるから。多分、どんな時でも、知識と経験と人脈は財産だよ)」


「そうだね〜。あっ……それじゃ……はいこれ。店の掃き掃除をお願いね。その後は、アミラと一緒に接客をお願いね」


 祖母は悩んだ末に、店のすぐ側に置いてあった箒を俺に渡した。どうやら、今日から掃き掃除と接客を行うようだ。


「(引き受けて何だけど、俺は果たして接客なんて出来るかなぁ? いや、前世で、コンビニアルバイトやったから出来るっちゃ出来るけど……どうなんだろう?)」


「でも、婆ちゃん。俺、接客なんてやった事ないよ。大丈夫かなぁ?」


 心配になった俺は婆ちゃんに聞いた。


「大丈夫よ。リオ君は大きな声で挨拶をして、お客さんのお話相手になってくれれば良いからね。お客さんも普通は、子供相手に難しい話をしないからね」


 俺を安心させる為に祖母は、右目をウィンクして話した。


「分かったよ! 掃除が終わったらやって見るよ」


「うん、素直でよろしい! 接客をしていれば自然とリオ君が私の孫だって周囲に自慢できるし、防犯にも繋がるからね〜」


 祖母は、会ったばかりの俺の事を色々考えてくれていた。


「(防犯までは、考えてなかったな……確かに俺は、この王都では、何処ぞの冒険者の子供だ。人攫いや迷子になった時に先ず助けてもらえない。


 でも、多分、武器屋ミンクの孫としてなら、打算目的でも助けてくれる人は多くいるって信じたい)」


 そう思いながら俺は、仕事をこなした。


「おはようございま〜す! 今日から店の雑用をするフィデリオです! よろしくお願いしま〜す! ゴボッゴボッ! 喉痛ぇ」


 俺は、箒を持って店の前に立ちジレン、ユリス、アミラに挨拶をした。


「おう、よろしくな坊主。 あんま無理んすなよ」


「そうだぞーよろしく坊ちゃん。」


「うふふ、よろしくお願いします、フィデリオ坊ちゃん。」


 彼らも作業を一旦中止し、挨拶を仕返した。俺は、彼らから挨拶を受けた事をキッカケに、店前の掃き掃除を開始した。前世の道と違い道端に色々なゴミが落ちているため、割とやり甲斐があった。

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