第14話 ノムルス族の祝福
「それじゃ、母ちゃん、申し訳ないけど、改めてリオをよろしく頼むよ。俺達は、本格的に冒険者稼業に戻るから」
父はユリスとジレン夫婦が、作業に戻った事をきっかけに祖母に本題を話す。その表情は、とても申し訳なさそうだった。
「まっかせなさ〜い! 私が、責任を持ってリオ君を預かるから安心しなさい! アモン、アーシャちゃん!」
両足を肩幅に開き左手を腰に当てて、笑顔な祖母は、右手拳を胸に当てて頷いた。
「お義母さん、ありがとうございます! この子をよろしくお願いします! じゃあね、リオ。大人しくって、いつも大人しいわね……心配ないけど、あまり、迷惑かけちゃダメよ」
母は、自身の左手を俺の左肩にそっと置いて、祖母に頭を下げる。
「リオ、一緒に居てやらなくてごめんな……。それじゃあ……仲間が待っているからもう行くぜ。婆ちゃん達の言う事をしっかり聞けよ」
父は、申し訳なさそうに軽く頭をポンポンと叩くと、母を連れて店の外に向かった。
「うん! 分かっているよ! いってらっしゃい! 気をつけてね!」
俺も心配をかけない様に、笑顔で手を振り返事をした。
「さてと……それじゃ、リオ君、場所を移してお家に行きましょう」
祖母は、俺の手を握ると作業場の奥の扉を開き、祖父母の家に行った。蛇口の形をした水の魔道具で、手洗いうがいを行い、テーブル近くの椅子に腰掛けた。
「はい、リオ君。クッキーとリゴン水よ。どうぞ召し上がれ」
「おおっ! リゴン水だ! 婆ちゃん、ありがとう!」
祖母は、小麦色のクッキーが10枚入った箱と少し赤い金属製のコップに入った紫色のリゴン水を取り出す。そして、俺は手を叩く程喜んでそれ等を頂いた。
「あはは! どういたしまして。リオ君は、リゴンが好きなの?」
「うん! 良く父ちゃんに買って貰って、食事の後に皮ごと食べている位大好きだよ!」
「ヘェ〜皮ごと食べているの! 偉いわ。リオ君、他に好きな物はあるかしら?」
「う〜んっ? 今のところ野菜も食べているけど、食べられない物や嫌いな物は無いかなぁ。あっ! でも、クッキーみたいな甘い物とか、焼肉とか、すごく好きだよ!」
「そっか、そっか。嫌いな物が無くて良かったわ。今日のお昼は、腕によりをかけてあげるから、期待してね!」
「ありがとう! 婆ちゃん! でも……さっきお客さんがいっぱい居たから、難しい時は無理しなくて良いよ」
「子供が、何遠慮して、気を使う必要ないよ。いっぱい甘えて良いんだから」
「うん、ありがとう、婆ちゃん。でもそれなら、簡単な野菜炒めでも良いから……たくさん食べたい。俺、食べる事が大好きなんだ」
「あはは! 分かったよ。たくさん作ってあげるね。それじゃ、リオくん、悪いんだけど……ここで、ちょっと待っていて貰えるかしら?」
そう言って祖母は、家の中から小さな箱を持って現れた。
「婆ちゃん、それはなんなの?」
「リオ君、これはね、ノムルス族の伝統の祝福よ」
祖母の持つ小箱を開ける。そこには、金属の小槌(ハンマー)の形をした装飾品と首にかける為の鎖が付いていた。
小型の金槌型の装飾品の頭には、赤色の金属に波打つ雲の様な民族文様みたいな彫りがされている。柄は、頭と違う黒色の金属使用している。鎖部分は、頭から少し突き出た柄に銀色の金属で細かく繋がれている。
「ノムルス族は、古くから神様に祝福を受けたら、血族の者が、男児に小槌、女児に小槌を模した装飾品を与えて別に祝福をする習慣があるのよ。
でもね、10年くらい前に王都イシュリナに住む妖精種が集まる[長寿の会]って言う集まりがあってね。"子供に小槌を与えるのは、危なくないか?" って話があったのよ。話し合いの結果、代替案として王都では、女児の装飾品を男児にも与える事になったのよ」
「ヘェ〜そうなんだ〜。ありがとう! 婆ちゃん! 大切にするよ。あれっ? これ、どうやって着けるんだろう?」
俺は祖母から装飾品を貰い早速、着けてみる。しかし、前世を含めてもネックレスをしたことが無い俺は、着け方が分からず悪戦苦闘した。
「ちょっと貸してみて……うん、これで良し。自分で言うのも何だけど、とても似合っているよ。流石私だ。装飾品は、あまり作らないけど、よく出来ている」
着け方が分からなく、悪戦苦闘していた俺を見た祖母が、後ろに回り着けてくれた。祖母は装着した俺を見て、笑顔で自画自賛していた。
「えっ? この装飾品って婆ちゃんが作ったのっ!? 婆ちゃんは武器屋じゃないの?」
「武器屋だよ。でも、故郷にいた時や下積み時代に修行の為に装飾品作りをしていた時期があるんだよ。今でも、空いた時間に趣味で作っているんだよ」
祖母は普段通りに話していたが、装飾品の出来は装飾品職人の物で普通に販売出来る物だった。有り体に言って普通に凄かった。
「リオ君、改めて祝福おめでとう! 私達ノムルス族は貴方を祝福します」
驚いている俺を置いて祖母は、真面目な顔になり1人のノムルス族として、俺をノムルス族の一員として祝福を行った。
「ありがとう! 婆ちゃん!」
「さてと、そろそろお昼の時間だし、ご要望通りたくさん作るからお手伝いよろしくね、リオ君。」
「うん! 分かった! それで何をやれば良いの? 婆ちゃん?」
今日は昼飯食って、昼寝をしたら1日が終わっていた。仕事から帰ってきた両親と共に、家に帰って日課をこなした。
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