第13話 新婚夫婦

 祖母の店である[ミンクのかじや]と言う名前。ひらがなとカタカナ文字で、書かれている看板の場所に着く。其処はかなり繁盛していた。


 傷だらけの体、完全装備をしていて、如何にも冒険者って風貌の色々な人種が、店に置いてある武器を熱心に見ていた。


「ただいま! アミラ、久しぶり! 母ちゃんに会いたいんだけど、今って時間は大丈夫か?」


 店の中を探す様にキョロキョロ見渡す父は、ポニーテールで、赤い髪の女性に話をかける。


「お帰りなさい。お久しぶりです。アモン坊ちゃん、アーシャちゃん。あら? うふふ。こんにちは。私は、アミラーシアと申します。貴方のお名前を教てくれないかしら? 坊や」


 赤髪ポニーテールの女性は[アミラーシア]と言う。彼女は、両親に挨拶を行うと、俺と目が合い、微笑みながらその場でしゃがみ込み、俺の自己紹介の場を与えてくれた。


「は、はい! 俺はフィデリオって言うんだ。今年で5歳になった。アミラーシアさんよろしくお願いします」


 とても緊張した俺は、頭を下げて挨拶した。最初は、敬語を使って挨拶しようかと思った。しかし、緊張と幼い身体に精神が引っ張られた為、チグハグで不出来な敬語でしか、挨拶が出来なかった。


「うふふ。フィデリオ坊ちゃん。私は、アミラで良いですよ。此方こそ、よろしくお願いしますね」


 そんな、俺のチグハグした挨拶を見て、アミラは、口元に指を当てる。その表情は、何処と無く微笑ましいものを見た様な表情だった。アミラは、俺と同じ目線に合わせたまま、ゆっくりと頭を撫でた。


「(こう言う仕草や話し方ってさ……母ちゃんには悪いが"大人の女性"って感じなんだよなぁ)」


「そろそろ良いか? アミラ、母ちゃんって、いつもの作業場にいる?」


 そんな俺たちを見て父アモンは、祖母ミンクの居場所についてアミラに聞いた。


「ええ。師匠は、店の奥の作業場にいらっしゃいますよ。本日は、坊ちゃん方に会うのを、楽しみにしておりましたよ」


 アミラは、振り向き店の奥の作業場を指さす。


「ごめんなさいね、アミラさん。本当は、もっとゆっくりしたかったけどお互い忙しいから、また、今度お話ししましょう」


 母は、申し訳なさそうにアミラに謝る。


「ええ、心得てますよ、アーシャちゃん。それでは、アモン坊ちゃん、アーシャちゃん、フィデリオ坊ちゃん……私はこれで、失礼しますね」


 アミラは元の仕事に戻り、俺達は、作業場にいる祖母の元に向かった。


 作業場には炉と金床が2つずつある。その周りには、ハンマーがぶら下がっている丸太みたいな物、何かの液体が入った割と大きな器、作った武器を研ぐための研磨台などが設置されていた。


 そして、その周りには、20代後半位の黒髪の女性人間種と顔や頭に傷だらけの漫画とかにいそうなヤクザっぽい男性人間種が、茶髪の少女に指導されていた。


「剣を振った感じから、この剣には、先端の方に少し金属の偏りがあるわ。だから、もう少し調整して行なってね。っと、貴方達少し休憩ね。お帰りアモン、アーシャちゃん。こんにちは、ぼく」


 指導を終えた祖母らしき少女が、俺達に気が付き、挨拶をする。


「ただいま、母ちゃん、ユリス、ジレン。息子を連れてきた」


 長い茶髪でポニーテールの少女が祖母[ミンク]、長い黒髪を結んでいる女性が[ユリス]、ヤクザっぽい男性を[ジレン]と父は呼んだ。


「ただいまです。お義母さん、ユリスさん、ジレンさん。息子を預かって頂き、ありがとうございます!」


 母が、感謝の意思を示すのを見て頭を下げた。俺も両親に習って自己紹介を行い頭を下げた。


「こ、ここ、こんにちは。お、わ、私はフィデリオと申します。き、今日、本日からよ、よよ、よろしくお願いします」


「(いやね、ジレンさん? 超怖えよ。具体的には、ゲームの序盤に居る盗賊団の首領みたいな顔だ。それでいて、じっとこっち見てくんだもん。


 目線は鋭いし、俺の気分は、狩られる前の小動物だから死の危険を感じて敬語が出来たよ。父ちゃん達も普通に接しているから、悪い人じゃ無いと思うけど、普通に怖ぇよ)」


 転生後に精神が、肉体年齢に引っ張られていた俺だったが、あまりの恐怖で、ガチガチに震えて死の危険を感じた。


「おぉ……またか……」


 ジレンは俺の態度を見て、動きを一時停止させる。すると膝から崩れ落ち、地面に両膝と両手を着き、とてもショックを受けて落ち込んでいた。


「(なんか……ショックを受けている……悪いことたなぁ)」


 俺は、そんなジレンの態度に罪悪感を感じる。それと同時に、初めに抱いていた恐怖も、次第に無くなっていった。


「わっはっは! リオ、ジレンは、こんな見た目をしているが優しい奴だから、そんなに怖がらなくて大丈夫だぞ」


 父が、ジレンをフォローの様な追加攻撃をした事によって、場が落ち着きを取り戻そうとした。


「あはは! 改めまして、お帰りなさい。私はミンク。貴方のおばあちゃんよ。気軽に婆ちゃんって呼んでね! 私も貴方をリオ君って呼んで良いかな?」


 祖母は、右手で口元を隠す様に笑った後、片膝を地面に着いて挨拶した。


「うん、良いよ! 俺も婆ちゃんをミンク婆ちゃんって呼ぶね」


 祖母は、俺を初めから親しみを込めて呼んでくれた。その為、俺は何も気負うことなく自然体で、挨拶する事ができた。


「うん、良いわよ。それと、こっちの2人を紹介するね。人間種パーソン族で、長い黒髪を結んでいる女性がユリス。人間種パーソン族で、黒髪の顔の怖い男性はジレン。どっちも私の弟子だよ」


 祖母は、ジレンの時だけ、ニヤッと笑いながら紹介する。


「ちょ、ちょっとー! 師匠! そんな、紹介の仕方はないでしょ! はぁ〜改めて、よろしくな坊主! オイラはジレンって言うんだ。


 顔については……あまり触れないでくれ……っておい! ユーリ! いつまで笑ってんだ! お前も挨拶しろよ。」


 ジレンは、見た目と口調が硬派な割に、職場では、いじられキャラっぽい立ち位置だ。


「ギャハハ! あー久々に笑えた。アタイはユリスって言うんだ。よろしくな! 坊ちゃん」


 逆にユリスは、何処と無く男勝りで、母アーシャに少し似た性格をしている。


「(っん? ジレンさんが、ユリスさんを愛称でユーリって言っていた……なんか、凄く仲良いな。兄妹かな? 折角だし、聞いてみっか)」


「はい! よろしくお願いします。えーと、2人は仲が良いみたいだけど兄妹・姉弟……なんですか?」


「うふふ。リオ君、違うよ。2人はね、夫婦なんだよ。半年前に結婚して新婚ホヤホヤなんだよ。」


 俺の質問に祖母は、やっぱりニヤニヤしながら否定する。


「(え、えーっ!? マジでっ!? いや、仲が良いと思っていたから、もしかしたらって思ったけど……まさか本当にご夫婦だとは、思はなかったなぁ)」


 祖母に夫婦って言われてから、ジレンとユリス夫婦は、視線を外して照れていた。


 この世界では、前世と違い1年を360日・12ヶ月と定めて数えられている。更に細かくすると1ヶ月・30日・5週間と定められている。


 月と曜日の名称もあり1月から12月までネズミ・ウシ・トラ・ウサギ・ドラゴン・ヘビ・ウマ・ヒツジ・サル・トリ・イヌ・イノシシの順で定めている。


 曜日は、上からユウキ・ニンタイ・コウテイ・テイセツ・ドウギ・カンダイの順で定めており、一般的にユウキ〜ドウギの5日を平日、カンダイを休日として考えられている。


 例えば、今日を表すなら"ヘビのツキ・5ニチ・ドウギのヒ"と言う風に言う。つまりジレン夫婦は結婚して半年という事なのでネズミのツキという事だった。


「し、師匠! その話は、また今度で! 俺たちは作業に戻りますね! またな! 坊主。では、失礼しますねアモン坊ちゃん、アーシャさん」


「そ、そうだな! 師匠、アモン坊ちゃん、アーシャ、失礼しますね。またね、リオ坊ちゃん。」


 2人は逃げるように作業に戻った。

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