第12話 パーソナルボックス

「リオ〜! そろそろ出発するわ。準備は出来良い?」


 俺が思考に耽っていると、後ろから両親にそろそろ出発する旨を言われる。


「えっ? あっ! ごめん、母ちゃん! 今、行く!」


「うふふ、父ちゃんが、荷物を持って外で待っているから、早くおいで」


 母は俺に手を出し声掛けを行い、一緒に手を繋ぎながら玄関を出た。


「ごめん! 父ちゃん、母ちゃん、お待たせ!」


「気にすんな、リオ。そんなに待ってねぇし、日課と違ったお出かけだからな、何かと考えちまうのは無理ねぇよ。よし……戸締りをしたからそろそろ行こうぜ。


 婆ちゃん家は、鍛冶屋の裏手にある。人混みが多く迷子になるかも知れねぇ。だから、最初は、俺達と手を繋いで行こうぜ。な?」


 待っていた父に謝ると父は、笑顔で顔を振り気にしていないと言った。家の戸締りを行なった後、空いている手で俺のもう1つの手を繋いだ。


「それじゃぁ、リオ、アンタ、行きましょう」


「おう! 行こうぜ」


「うん! 行こう、行こう」


 俺たちは、祖父母宅歩き出した。俺は祖父母宅に向かう最中、周りをキョロキョロしながら、初めて見る街の景色、人、店などにとても興奮していた。


「(うぉ〜! スゲー、スゲー。人、多い…っ!?)」


 興奮しきっている俺を横目にみて、両親は微笑えんでいる事に俺はびっくりした。


「(うぉぉ……俺は、まるで子供かよ……。あ、いや、まぁ、子供か、俺は。なら、若干恥ずかしいけど、楽しむしか無いか)」


 あまりの恥ずかしさで、俺は下を向き、子供である事を再度認識した。そして、俺は、子供の特権を行使して、はしゃぐ事を心に決めた。


「父ちゃん、母ちゃん! そう言えばさぁ、アローゼンやイシュリナ、冒険者についてもっと教えてよ!」


 祖父母宅に着くまでの間、俺は両親にアローゼンやイシュリナの事、冒険者ギルドの事について、色々話を聞いてみた。


「うん? そ〜だなぁ。まぁ、リオなら、賢いし多分、理解出来んだろ。よし、まずはアローゼンについてだ! アローゼンは、迷宮王国って言ってな。その名の通り、他国よりも迷宮の保持数がとても多いんだ!」


「おおっ! すごく……多い?」


「おう! 合っているぞ! 他国では大体3〜5箇所くらい迷宮を保持しているが、アローゼンは確認できている限りで18箇所の迷宮を保持しているんだ」


「えっ! そんなに違うの!? ん? 確認している限りではってどう言う事?」


 俺は意外とって話ではなく、迷宮が多過ぎる事に驚愕し、父の言葉に引っ掛かりを覚える。


「良いところに気が付くな〜リオ! 実はな、アローゼンの迷宮って、まだ全部かどうか、分からないんだよ。


「えっ? 分かっていないの?」


「おう! 元々は、アローゼンも保持数が8箇所で、他国よりも多いが、"まぁ迷宮王国だし?"って事で納得されていたんだ」


「うん? うん」


「でも、100年くらい前から、新たな迷宮が4箇所出現した。そして、元々保持していた迷宮の内6箇所に隠し迷宮が発見されたりした。


 そのことを踏まえて、後の2箇所にも隠し迷宮が、あるんじゃないかって言われているんだよ」


 俺の頭を撫でながら、父は説明の続きを言う。途中迷宮が多過ぎる理由を説明するときは肩をすくめて言った。


「へぇーそんなんだ〜。じゃあ、王都イシュリナには何箇所くらい迷宮があるの?」


「元々、保持していた4箇所と新たに発見された隠し迷宮3箇所の7箇所だよ。その為、多くの人がイシュリナで、店を構える。だから、此処は常に活気があるんだ」


 父は自慢げな表情で説明する。


「ふ〜ん……分かった。それじゃあ、次は冒険者について教えて!」


「任せてちょうだい! 冒険者は、まず冒険者ギルドに所属する必要があるの。そこで、ギルド証(カード)を作成する必要があるわ。それで初めて、冒険者の仕事が出来るわ」


「おおっ! 冒険者ギルド! ギルドカード!」


「うふふ、ええ、ギルドでは、依頼された内容に応じた依頼金から、税金やギルド運営費が引かれた額が、手持ちに入るのよ。依頼は、様々で探し物から庭の手入れ、護衛、迷宮魔物の素材や魔石の納品などがあるわ」


 今度は胸を張った母が俺に冒険者について教えてくれた。


「へぇー色々あるんだねー。依頼金は全額貰えないの?」


「ええ、そうよ。アタシ達冒険者は、ギルドに所属すると流民扱いになるから、極論を言えば国に税金を払わなくても良いし、戦争の時には、兵士になる事は無いわ」


「そうなんだ……でも、話の流れからすると、それだとダメなんだよね?」


「その通りよ。それで、税金を納めないと国の保証が受けられなくなっちゃうのよ。そうなると、国が所有している迷宮も使用禁止になっちゃうわ」


「税金って、とても大切なんだね」


「そうよ。それで、アタシ等って急に依頼で他国に長期間住む事や用事で引っ越しする事が、割と良くあるわ。リオも分かるでしょ?」


「うん、俺達の引っ越しのことでしょ?」


「そうよ。それで、冒険者自身が、国に納税すると各国で納税義務が発生する事もあって、すごく面倒になるわ。1つでも未納税になれば、最悪、脱税扱いになり、犯罪者になった時代もあったそうよ」


「うへ〜めんどくせー」


 俺は納税の面倒さに顔を顰めた。


「そうなのよ。そうなると国も、ギルドも、アタシ等冒険者も、お互いに良く無いわ。だから、依頼金を渡す前に税金とアタシ等の納税を管理する為のギルド運営費が、差し引かれるのよ」


 母も同意する様に頷き説明を続ける。


「でも、冒険者1人1人の情報を管理して、各ギルドに共有するのって普通に無理だ思う。その辺りは、一体どうなってんの?」


「アタシも、詳しくは分からないわ。でも、ギルドカードに今までの依頼内容をリレキ? 情報として、読み込ませて各ギルドに共有する魔道具があるわ」


 俺は母の言葉にある確信を得て内心呟いた。


「(履歴情報って……それ作った人、絶対転生者か転移者の類だよ。便利でありがたい事だけどさ……時代と言うか世界観に合っていない性能だよ、それ)」


 そんな俺を他所に、母は思い出しながら話を続けた。


「名前は[パーソナルボックス]って言ってね。ギルドカードと連動して使える、不滅神の魔道具なのよ。ギルドカードも[不滅と炉心の神ヘスティルト様]が、製造方法や術式を残したそうよ」


「えっ? 神様が作ったの?」


「そうよ。でも、多くの魔工技師達が、それを元に技術発展をしようとしたわ。でも、内容が1つも理解出来無かったわ。そして、実験を行うが、その全てが動作せずに終わったらしいわ」


「お、おう……ありがとう……母ちゃん。よく分かったよ」


 俺は、確信を得たとか思った割に普通に間違えた。そして、内心でとても恥ずかしくなり顔を"カァッ"っと赤くし俯く。それでも、説明してくれた両親に感謝を述べた。


「それなら良かった! だが、元気が無くてどうした? 疲れたか? もうすぐ着くから頑張ろうな」


「大丈夫だよ。父ちゃん、母ちゃん。なんかさ……そのパーソナルボックスを作った人凄いなーって事を考えていたら、神様だったから、なんか……こう……間違えて恥ずかしく思っただけだよ」


 俺は心配してくれた両親の顔を見て、嘘はつかないと思い照れながら心情を述べだ。


「うふふ! そう言う日もあるわよ。あっ! リオ見えてきたわ! あそこよ!」


 母は口元に手を当て笑いながら俺を励ますと、ふと顔上げて祖母の店を指差した。店は、売り場と生産場所ががある立派な建物だった。


 現在、俺は、家から徒歩で20分くらいの距離を歩いて祖母の店に到着した。その店の裏に行くと一軒家があった。そこが、祖父母の自宅である。俺は、話に聞いた祖父母に会える事を楽しみに思い、自然と口元が笑った。

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