第4話マーク

マークは焦っていた。

ジョセフの無敗はまだ続いている。

しかしファイトマネーが戦績と比例しない。


マークとジョセフは幼なじみでいて

今はチャンピオンとマッチメーカーとして

お互いを信頼し合うビジネスパートナーだ。


ジョセフから呼び出しをされたのは昨夜だった。

待ち合わせ場所の閉店間際のカフェ。


少し早く着いたマークはぼんやりと

ジョセフから呼び出された理由を

考えていた。


もちろん1番最初に浮かんで来るのは

選手としての終焉。

もう40を迎えた彼の選手としての

価値がこれ以上上がる事はほぼない。


このままチャンピオンのまま引退させてあげたい。


その引退がすぐなのか、何試合か後なのか

それだけが頭の中を埋め尽くす。


マークにはどうしてもまだ引退して欲しくない

理由があった。


元々幼なじみだった2人はジョセフが勝つ事で

お互いの生活が成り立っている。


決してマークは敏腕マッチメーカーではなく

なんなら、ジョセフ以外の試合を組んだ事すら

なかった。


マークにとってジョセフの引退は

職を失う事とイコールになるのだ。


頭の中で何度も

もし、今日ジョセフから引退の話しを

されたら、どうにか説得出来ないものか

そればかりを考える。


決して敏腕では無いマークだが、

対戦相手を選ぶ目には長けていた。


ジョセフと相性のいい相手。

そう言うと聞こえは良いが、

要は勝てる可能性が高い相手。


マークは

対戦相手を選ぶ際は、ランキングや

ネームバリュー、話題性などは

一切考えず、ジョセフが安全に

試合を終える相手。

それだけを考えてやってきた。


ジョセフの絶対にリスクを侵さないスタイル

と、マークの対戦相手選び。


この2つがこれまで積み上げてきた

28戦28勝0KO

のカラクリと言ってもいい。


1度で大きなファイトマネーは稼げなくても

コツコツと積み上げてここまでやってきた。


そのうち

あるぼんやりとした閃が一瞬頭をよぎる

それと同時に暗くなった並木道から

こっちに歩いてくるジョセフの姿が

見えた。


マークはその閃を考える事はやめ

ジョセフを迎える事に集中する。



その閃は

心の片隅の奥。

固い鍵で閉ざされた奥底に

置いたまま。


その閃は後に違和感へと変わる。

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