第5話イスコ

イスコに連絡が来たのは雨上がりの

月曜日だった。

いつもの早朝のランニングを終え

シャワーを浴び、ジャージに着替える。

何気ない毎日。いつもと変わらない週の始まり。


イスコは近くのパン屋に朝食を

買いに出かけるのが毎朝のルーティンだ。

店主とももう古い付き合いだ。

パン屋の店主やイスコが行く店の人達、

いや、イスコが住むこの街の人達はみんな

イスコのことをチャンプと呼ぶ。


イスコはこの街のヒーローだが、

チャンピオンでは無い。

戦績は18勝2敗1分け16KO

もう何年もランキング上位をキープしている。


しかしもうピークは過ぎた。

今は連敗中だ。

ランキング上位からも外れ

今は挑戦権ギリギリの順位だ。


それでもイスコは強い覚悟を持って

じっとその時を待った。

イスコは人格者でもあった。

試合前のよくあるフラッシュトークにも

付き合わない。常に相手をリスペクトしてきた。


常にボクシングと正面から向き合ってきた。

間もなく30歳を迎えるが

結婚の予定も相手すらいない。

ただひたすらにチャンピオンになる事だけを

夢見てきた。


戦ってくれさえすれば絶対に勝てる!

そう信じてきた。


しかしどれだけ勝ち星を重ねても

何人もの相手を倒しても

そのチャンスは回って来なかった。


ジョセフがチャンピオンでいる以上

対戦は受けてもらえない。


誰もがそう思ってた。

しかし、チャンスは突然やってきた。


マネージャーからの電話でジョセフとの対戦が

決まった事を知る。


ファイトマネーは世界戦の

それとは言い難い金額だ。

会場は相手のホームタウン。


それでも構わない。

お金も場所も関係ない。


ベルトさえ持ってきてくれれば

全てはあとからついてくる。


イスコは迷うこと無く全ての条件を飲んだ。

そして

パンをかじりながら静かに拳を握りしめ

胸の中の興奮をも一緒に握りしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る