第33話 詰問

 尚哉にはそのパーティへ出席する気はさらさらなく、尚哉は元々あった予定を多少の無理をして日にちをずらし、二泊三日の予定で23日から沖縄地方へ出張し、物理的にも出席できない状況を作っていた。


しかし、出張の予定が入っていると伝えても秋光はパーティを欠席することを認めず、遅くなっても構わないから顔だけでも出すようにと厳しく言われていた。


 そして、クリスマスパーティの当日の昨日は、まだ出張先にいた昼過ぎからしつこいくらいに美咲から電話が入っていた。尚哉は、美咲からの電話を無視し続け20時過ぎに戻って来た後は、その足で会社へ立ち寄り翌日の仕事の段取りを付けて、その後ベルフラワーへと向かった。


「昨日のパーティへ出席することの重要性は、君も理解していたのではないのかね」


秋光に対して反発するような尚哉の受け答えに、秋光は語気を強めて不快感を顕にした。


 確かに、美咲のパートナーとしてパーティへ出席するということは、尚哉が美咲との結婚を受け入れ美咲の子どもの父親は自分だと公言するも同じことだった。尚哉はそのことが分かっていたため、こちらにいたままでは秋光があの手この手を使いパーティへの出席を拒めないように、雁字搦めにされかねないと考え遠く離れた地へ行くことにした。


その理由として、秋光が専務という立場上予定の変更を強制できないように出張へ行くこととしたのだった。


 専務室で秋光と対峙していた尚哉は、この場でそのことを正直に告げて秋光の怒りを煽り揉めたのでは、周りに美咲との問題が知れ渡り自分が窮地に立たされることになると判断し、できるだけ落ち着いて見えるように感情を押し殺して当たり障りのない返事を返した。


「昨日は仕事で沖縄方面にいて、帰って来た時間も遅かったものですから」

「遅くなっても構わないと言っておいたはずだ。それを君が勝手な行動をとったがために、美咲は一人で周りの好奇の目に晒されることになったのだぞ。春には子どもが生まれるというのに、君は父親としての責任を軽く考えているのではないだろうね」


美咲は、尚哉が達雄や達樹の助言を受けてきっぱりと拒否する意思表示をしたにも拘わらず、子どもを産まない選択肢を放棄した。今の美咲は、洋服を着た上からでも傍目に妊婦だと分かる体形になっていた。


 話しているうちに段々と感情が昂ぶり、あからさまに尚哉を非難し始めた秋光にし、尚哉が美咲の子どもとは無関係だと主張しようとした時、秋光のデスクの上に置かれた内線電話が鳴った。


秋光は鳴り続ける内線電話に忌々しげに一度視線だけを向け、尚哉を睨み付けたまま受話器を取り上げた。


そのまま尚哉から目を逸らさず無言で受話器から流れて来る話を聞き終えると、『分かった』と一言だけ応えて電話を切り短く息を吐き出した。


「急ぎの案件が入った。話の続きはまた後でだ」


この場での話は終わりだと告げられた尚哉は、即座に『失礼します』と頭を下げて専務室を後にした。しかし、尚哉の頭の中では秋光が言った父親の責任という言葉が引っ掛かっていた。

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