第30話 永遠の愛
梨奈は疲れた身体を押して携帯電話を手に取り、尚哉の携帯電話の番号を呼び出し通話ボタンに触れた。電話は繋がらず直ぐに切れた。
「もしもし。尚哉。尚哉は、私がいなくても平気なの。私は、尚哉に会いたい。会いたくて堪らない……。尚哉。愛してるって、言って。そうでないと、私はもう……」
切れた電話に向かって話し掛けた。梨奈は、これからどうしたらいいのか分からなくなってしまっていた。だが、尚哉からの返事は返って来なかった。
「私は、尚哉の帰りを待っていてもいいの……。ねえ、尚哉。待っていてほしいって、言って。お願いだから……、何とか言って……」
切れた電話からは、どんなに呼び掛けても返事はなかった。
翌日、何の答えも見つからないまま会社へ行き、仕事を終えてベルフラワーの建物の前まで戻って来ると、年末も間近に迫った夕暮れ時は陽が沈む時間も早くもう辺りは真っ暗だった。
溜め息を吐きベルフラワーの玄関を通り抜け、梨奈はいつもの習慣で手紙の有無を確かめるために、メールボックスへ近付いて扉を開けた。すると、中には見慣れない小さな箱と、その箱に添えてカードが一枚置かれていた。
梨奈は不思議に思いながらカードへ手を伸ばして取り出し、書かれていた文字を目にした。その途端、心臓が大きく跳ね上がった。そこには、尚哉の筆跡で愛する梨奈へと書かれていた。
『これは、尚哉が置いたんだ。尚哉が、帰って来たんだ』
そう思った時には身体が反応し、梨奈はカードを握り締めたまま建物の外へ飛び出していた。道路まで出て左右を見渡し尚哉を探したが、尚哉の姿を見つけることはできなかった。
尚哉に会えなかったことにがっかりしながらもメッセージを残して行ってくれたことで、梨奈の心は少しだけ軽くなっていた。
建物の中へ入りメールボックスから小さな箱を取り出すと、梨奈は落とさないように添えられていたカードと共に持っていたバッグの中へ大事に仕舞い2人の部屋へ向かった。
部屋の中へ入り、リビングのソファに腰を落ち着けてバッグの中からカードを取り出した。尚哉の字で書かれた『愛する梨奈へ』というメッセージをもう一度確かめ、他に何か書かれていないかカードをひっくり返してみると、それは尚哉の名刺だった。
名刺をソファの前に置いてあるローテーブルの上へそっと載せ、バッグから小さな箱を取り出して包装を解き中のものを取り出した。出てきたものは、梨奈も憧れている人気のジュエリーショップアークのマークが入ったビロードの布を張ったケースだった。
ケースの蓋を開けると、中には植物の蔦を模し、蔓の部分には花に見立てたダイヤモンドが散りばめられた指輪が入っていた。ケースから指輪を取り出し持ち上げてみると、台座になっているプラチナのリングの内側に『Endless Love』と刻印があった。
『Endless Love』、それは終わりのない愛、すなわち永遠の愛を意味する言葉。
嬉しさがじわじわと沸き上がり、梨奈は今の気持ちを尚哉へ伝えたくて電話を掛けた。しかし、電話は繋がらず切れてしまった。
「嘘……。嘘でしょ……。だって、帰って来てくれたじゃない。指輪だって、届けてくれたじゃない。どうして……。どうして、繋がらないの……」
梨奈は、切れた電話が信じられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます