第18話 記念日
本年12月25日。2年前の今日、梨奈と尚哉は恋人同士になった。クリスマスの日は、2人にとって大事な記念日でもあった。
去年のクリスマスの日には、2人でクリスマスケーキにろうそくを一本だけ立て、クリスマスと一周年のお祝いをした。今年もまた、ろうそくの数を一本増やしクリスマスケーキに二本のろうそくを立て、クリスマスと二周年のお祝いをしようと2人は約束をしていた。
尚哉とは相変わらず連絡がつかず、気を抜くと悪いことばかりが次々と思い浮かび、頭の中に不安だけが詰め込まれ頭がどうにかなってしまいそうだった。
だが、特別な日の今日だけは、今日という記念日だけは尚哉も忘れずに帰って来てくれると信じて、梨奈は尚哉の好きなものを中心に献立を考え心尽くしのご馳走を作った。
いつも食事をする時に使っているダイニングテーブルには緑色のテーブルクロスを掛け、テーブルの真ん中に白いレースで作られた小さめのテーブルセンターを置き、その上に淡いピンク色のバラの花を数本生けた花瓶を飾った。
それから、2人の席には赤い地色に金糸で格子模様を織り込んだランチョンマットも敷いた。出来上がった料理も綺麗に盛り付け、テーブルの上へ並べて準備を整えた。
冷蔵庫の中ではシャンパンと尚哉の好きな銘柄のワインも冷え、いつでも飲める状態になっていた。そして、今夜の主役とも言えるクリスマス用にデコレーションされたケーキも忘れずに用意した。
後は、尚哉が帰って来てくれれば完璧だった。
梨奈はマグカップにコーヒーを淹れてリビングのソファへ移動した。ソファに座り両手でマグカップを持ちコーヒーを飲みながら、帰って来た尚哉がすっかり準備の整えられている様子を見て驚いている姿を想像していると自然と楽しい気分になった。
「早く帰って来ないかなあ……」
思わず言葉が口から零れ落ちて、壁に掛けてあった時計へ視線を走らせた。
その時計はからくり時計と呼ばれているもので、1から12の数字の外側に小窓が設けられ、小窓の中には十二種類の愛嬌のある動物たちが隠れていた。
時計の短針がそれぞれの数字を指し、長身が12の数字と重なると短針が指している数字の小窓が開き、中から隠れていた動物が姿を現して色々な動きを見せてくれた。それと同時に、それぞれの時間に割り当てられた異なるメロディが、動物の動きに合わせて奏でられ時刻を教えてくれる優れもので梨奈のお気に入りの一品だった。
その時計は、去年のクリスマスにいつも仕事で帰りが遅い尚哉が、部屋で一人で過ごすことの多い梨奈が少しでも楽しめるようにとプレゼントしてくれたものだった。
その時の事を思い出しながら時計を見ていると、カタッと音がして9の数字の小窓が開いた。
奏でられていたメロディが鳴り止み、からくり時計の開いていた小窓がパタンと閉じられ、梨奈は視線を部屋の中へ戻し改めて部屋の中をゆっくりと見回した。
不動産屋の従業員に初めてこの部屋へ案内された時には、何も置かれていない空っぽの部屋だった。賃貸契約を済ませた後、尚哉と2人でもう一度この部屋の様子を確かめに来た時も、やっぱり空っぽのままだった。
『これから、ここで尚哉と一緒に住むんだ……』
梨奈は何もない部屋を見渡し、嬉しく思いながらも現実感がなくて不思議な気持ちがした。
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