第6話 迷い猫をプロデュース⑥ 彼女の身体の秘密

 *



「何騒いでるんだあいつら……」


 リビングにて、雑巾片手に瑠依の鞄の落書きと格闘していたタケオは顔を顰める。

 風呂場はかなり離れているはずなのに、瑠依と愛理の言い合いがここまで聞こえてくる。


 それにしても、とタケオは考える。

 先程、愛理に無理やり風呂に連れて行かれる瑠依の姿。


 あの嫌がり方はちょっと異常だ。

 何か風呂に入れない理由があるのだろうか。


「まあでも、さすがにそろそろ観念して――」


 ――ぎゃーッ!


 遠くから一際大きな悲鳴が聞こえてきて、ドドドドドっと、凄い足音。そしてバダン、とリビングのドアが開かれる。現れたのは下着姿の瑠依だった。


「タタタ、タケオくん助けてぇ〜!」


「ちょ、お前ッ!」


 瑠依はソファに座るタケオへと飛びついてくる。

 痩せっぽちでガリガリ。でもやっぱり女の子の身体。

 健全な男子中学生であるタケオは大いに動揺する。


「こら、お待ちなさい!」


 次いで現れたのは愛理だった。

 こちらはなんとバスタオル一枚の姿である。


 タケオの腰にしがみつく下着姿の瑠依を見た瞬間、愛理の目に炎が宿る。そして「やっぱりこの泥棒猫がぁ……!」と言って瑠依を引っ剥がしにかかった。


「やめなさい、お兄様から離れなさい!」


「お風呂は嫌! 水に濡れるのはダメなの!」


「わかった、わかったから離れろ! 一旦落ち着け! こら、服引っ張るな!」


 しっちゃかめっちゃか。

 もう収集がつかない。


 瑠依はタケオに助けを求め、愛理は瑠依をタケオから引き離そうとやっきになっている。半裸の同級生と妹に迫られ、タケオは両手を上げてホールドアップした。


「いい加減にしなさい!」


 その時だった。

 あまりにも言うことを聞かない瑠依に怒った愛理が、瑠依の髪の毛を引っ張る。

 下着姿だからブラやパンツを引っ張るわけにもいかず、苦渋の選択だった。


 だが次の瞬間、スポンっと瑠依の髪が丸ごと取れた。

「え?」「は?」とタケオと愛理の目が点になる中、瑠依はますますタケオにしがみつき、ウィッグ・・・・が取れたことに気づいていない。


 いや、問題はそれよりも――


「おいおい、お前、それって――」


「あなたまさか――」


「へ? なに? あ――!?」


 ようやくウィッグが取れたことに気づいた瑠依は、自分の頭を両手で抑えてうずくまった。


「み、見た……?」


「ああ……」


「しっかりと」


 タケオと愛理が頷く。

 取れたウィッグの中から出てきたのは、なんと結構なボリュームの赤い髪の毛だった。


 染色などではない、生え際から赤い、本物の地毛だ。

 さらに驚くべきは、頭の天辺――そこにはモコモコとした赤い体毛に覆われた『猫耳』が生えていた。


「お前、まさかそれは魔法世界マクマティカの――」


「うわーん、見られちゃったー! 絶対誰にも見せるなってお祖母ちゃんとの約束だったのにー!」


 瑠依は火がついたように泣き始めた。

 下着姿のまま、しゃがみこんでワンワン泣く瑠依に、タケオはとりあえず自分の上着をそっとかけてやるのだった。

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