ゲームの達人

 エリア41は帝国の実験施設だった場所である。しかし、ある日唐突に謎の火災が発生し消滅してしまった。その原因はなんらかの実験が失敗ダメだと言われるが、その詳細は謎のままである。


 兵士は死にかけている。夜勤中に基地が爆発し、全身に破片が刺さってしまったのだ。多分同僚たちは爆発に巻き込まれたんだろう。

 白髪を紅く染め、のどが裂かれ、ヒューヒューいっているかれに黒い影が迫っている。影というよりは漆黒が動いている感じ。しかし、視力を失ったかれには、気配しかわからない。

『おや、生き残りがいるのか』

 影はものすごい金属的な発声で、そう言った。

『おまえ、生きたいか?』

 と、続けてそう問いかけた影に、兵士はうなずく。

 次の瞬間、体内に、なにか侵入していくのをかれは感じた。


 意識を取り戻したとき、かれは自分の目がへんになってることに気づいた。周囲がサーモグラフィーや熱源のように見えたのだ。そのなかの人型が、話しかけてきた。

「きみが今回の事故唯一の生き残りか」

「ええそうです」

 と、話してかれは喉のあたりに違和感があることに気づいた。

「そうか、それは残念なことだ」

「どういうことです?」

「きみは今、ここで死ななきゃならんのさ」

 しばらくレクチャーされて、かれはその事故の結果として、もはや希少な実権体となったらしいと教えられた。

「じゃあ、どうしたら?」

「うん、まあ役立ってもらわんとなあ」

 こうして、兵士ソルジャーが死んで間諜スパイが生まれた。


 さて、間諜のスパイとしてのマスターとなったのはゲンガイという猫で、間諜はかれにスパイとしてのイロハを叩きこまれた。それは例えば

「スパイは1人で生き、1人で死に行くものにゃ。わたしも、キミがピンチになったときは助けにゃいぞ」

という、間諜に言った言葉セリフに端的に表れている。

 ゲンガイは、いわゆるスパイとしては異色で、もともと帝国のエリート層の出身だったのが、上層部にそねまれて閑職に回されたが、そこでスパイマスターとしての適性が発見され、いまに至る。なお彼自身の志望は歴史家であったという。

 ともあれ、間諜はかれのもとで、スパイとしての技術アートや生き方を学んだ。

 間諜は、数十年にわたって舞台裏を暗躍し、引退した。その後は不明である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る