ある日の霧島拓海

 霧島拓海は何者かと言えば、『学校の何でも屋』である。

 例えば、ある日のこと。

「なに、カノジョが不良にたかられてる?」

「ええ、カツアゲとか万引きをやらされたり、タイヘンなのにゃ」

と、耳付きの少女が不安アンニュイそうに返した。

「おう、任せな、何とかしてやる」

「ありがとにゃ」

 というわけで、いま拓海の前には絵に描いたような不良が3人いた。

「ということで、もう彼女に付きまとわないでくれるかな?」

「そう言われてはいと言うとでも?」

 不良たちは顔を見合わせて、ヘラヘラ笑った。すると拓海は校舎のカベにおもむろにパンチする。

バカン!!!!!

 するとカベにコブシがめり込んでしまった。しかも拓海のコブシは無傷。そして彼女は、こういう。

「もう一回だけいう、彼女に付きまとうな」

 唖然とした不良たちは

「わ、わかった」

と、冷や汗をかきながら返す。

「……というわけで、もうあいつらはキミのカノジョにあわないぜ」

「拓海ちゃん、ホントにありがとにゃ」

 心の底から感謝する少女に、拓海は照れ笑いしながらこう返した。

「いいってことよ」


 またある日のこと。

「なに、イヌを捜してほしい?」

「うん、散歩してたら、どっかにいっちゃったの。心配で心配で、授業に手もつかないわ」

「で、どんなイヌだい?」

「写真があるわ。……これよ」

「わかった、捜してみるよ」

と、拓海が依頼者が散歩していた道をたどっていくと、ちょうどそのイヌが蒸機馬車に引かれそうなところに遭遇した。

「あぶない!!!」

 拓海は蒸機馬車の前に仁王立ちすると、蒸機馬車がキキィと止まる。

「なにやってるんだ、あぶないだろ!!」

「すまないね、イヌを助けようとしたんだ」

と、イヌを運転手に見せる。

「……ホントだ、ありがとよ、あやうく引くとこだった」

 運転手が謝ると、拓海は手を振りながら返した。

「いいってことよ、おたがい気を付けようぜ」


 さて、そんな拓海だが、なぜこのようないわゆる『何でも屋』みたいなことをしているのか?

 それには、彼女の生い立ちを語らなければならない。

 拓海が物心ついたころから、彼女には不思議に思うことがあった。

 彼女の母親はいわゆるシングルマザーで、女手一つで拓海を育てていた。しかし、拓海の母は働いてなかったにも関わらず、なぜか最低限暮らせていた。さらに言えば、彼女が進学する際も、学生用の保険や基金を一切使わず、自費ですべてまかなえていた。

 母はいったいからそんな金を得ていたのか?

 そんな疑問はある日、母と拓海の父であるという存在との逢瀬を見てしまったことで氷解する。つまり

・母はジングルマザーではなく、今も父と夫婦である

・父はあちらこちらに愛人を作り、母が拓海を産んで以来、母に会うことがなかった

ということを、拓海は知ってしまった。

 普通なら心に闇を抱えてしまったりすることだろうが、拓海は

「母さんみたいなヤツがいたら助けよう」

と、決意した。こうして『学校の何でも屋』が誕生する。

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