聖域都市その1

 ニューラグーン州は一応帝国領であるのだが、実際のところは他の共和国、皇国という三大国家が自分に近い部分を自治領と称して領有権を主張したり、特権自治区と呼ばれるものが、学園都市と避暑地のふたつあったりで、複雑怪奇な地域である。

 それゆえにニューラグーン警察は本来帝国の司法組織なはずなのに、連合警察の支庁が、代わりのようにニューラグーンの治安維持にあたっているのであった。


「ニューラグーン警察のものですが、入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、はいどうぞ」

と、ニューラグーン市街にある『ストッゲート』という小さなホテル(来訪者であるオーナー言うところの『旅館』)の一室に入った亜季は、部屋の惨状を見て、かるく首をかしげた。

「あ、検死官さん、状況はどうなっているのでありますか?」

「うん、そうかそうか」

「あのう……」

「どうした?」

 鬼太郎のような髪形の検死官が、ようやく亜季に気づいたように、そう返す。

「ふう、やっとこちらの話も聞いてもらえるでありますか。この部屋の状況を教えてほしいんですよ」

「ああ、そんなことか」

「そんなこと……」

「被害者は、キーティングとかいう州議員。脳天にじゅうだんを一発ぶちこまれてるのが、死因だな」

「なるほど」

と、亜季は軽くうなずく。

 その時、制服警官が、大声で、彼女の名前を呼んだ。

「阿武隈捜査官!」

「にゃ、なんです?」

 猫耳を立たせながら、亜季は制服警官にそう返す。

「被害者の奥さんが、支庁に来たそうです」

「うん、わかった」

「それが……」


「キーティング夫人、その」

「なんです?」

 キーティング夫人は口ごもる係長を見て、キョトンという感じの表情をしながら、たずねた。

 キーティング夫人は白髪で、幼さと老成した雰囲気を漂わせているきれいなひとだった。

「貴女はつまり……」

「ええ」

と、キーティング夫人が微笑みながら語る。

「マジかよ……」

 同席していた崇は、唖然とした顔で、そう呟いた。

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