第22話 再会
こうして私と見矢園さんは
それから二年、私は地味に地味に大学生活を送り冬季試験もひと通り済ませた冬季。
ゼミの飲み会で夜も更けた九街区新市街の喧騒が私には鬱陶しい。騒々しい卓の隅で一人でちびちびとチューハイを飲んで時間を潰す三時間は退屈だった。いつの間にか私は数少ない長所である世話好きな気質まで忘れ去って、こうした席でも一人ぼんやりと過ごす時間が増えた。そんな時には決まってある
クリスマスが近づくとCLED(※)のイルミネーションも派手になり、街は浮ついた喧騒に包まれる。私には無縁の世界だ。こうしたきらびやかさはあの人にこそ似あっているのに。そう思うたび私は涙が出そうになる。二年前から全然進歩してない。本当に嫌になる。
小雪ちらつく横断歩道を渡ろうと信号待ちをする。目の前にはクリスマスカラーの
信号が青になる。路面電車が発車し視界が開かれる。
暗くてよく見えないが20mぐらい先に一人の人影がある。よく見えなくてもよくわかる。私には一瞬で見分けがつく。見矢園さんだ。
見矢園さんも私に気付いたようで20m先で固まっている。そうこうするうち信号が赤に変わってしまいまた派手な塗装の路面電車に視界を遮られる。
次に路面電車がいなくなって時にはきっともう見矢園さんはいないだろうと思ったが、果たして見矢園さんはまだそこにいて身を
私は勇気を振り絞り、見矢園さんのいる方へ向かい横断歩道を渡っていった。
真っ赤な傘をさして立ちつくす見矢園さんの顔も真っ赤で、一目見て判るほど動揺している。
「おっ、お久しぶり、ね」
「はい、お久しぶり、です」
そのまま私たちは何も言わず見つめあって立ちつくしてしまった。でも私は感じていた。ほんのわずかな時間でも、こうして見矢園さんのそばにいることがこんなにも心地いいものだったのだと。こんなにも気持ちが安らぐものだったのかと。
「その、音大はどうですか」
「うん、結構大変。でもまあまあかな。え、あと、その、つっ、土鳥さんは?」
「私も結構大変ですけどまあまあ、です」
「そ、よかったね」
「はい」
また互いの視線を合わせずに立ち尽くしてしまう。
私は思っていた。やっぱり私は見矢園さんのそばにいたい。いつだってそばにいたい。どこにいたってそばにいたい。ずっとずっと!
「あの!」
「ねえ」
二人同時に声が出る。珍しく語気の強い私に見矢園さんは驚いていた。
「なに?」
「い、いえ、見矢園さんからどうぞ」
いつも自分を前面に出さない私に苦笑しながら見矢園さんは言った。
「カフェ行かない?」
私は一瞬逡巡したが
「はい、ご一緒させて下さい」
と答えた。
▼用語
※CLEDライト:
民生用LEDライト。LEDライトより耐久性や信頼性がかなり低い。
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