第17話 自分自身
翌日から私は家族の許しを得て毎日
「ねえ
私が病室に入るとリクライニングしたベッドに寝る見矢園さんが開口一番こう言った。
「はい。何か言われたんですか?」
見矢園さんの身に何かあったのではないかと、私は少しだけ不安になる。
「すごい快復力を見せましたね、ですって」
「良かったですね! 退院が早まったりはしないんですか」
私は心にもないことを口にする。本当はこうして二人きりでいる時間が長ければ長いほど嬉しいのだけど。この狭い空間に籠の鳥のように閉じ込めて、誰にも触れられないようにして私だけのものにしたい…… 時折そんな本当に邪な願望が頭をもたげる時があった。
「さすがにそれはなかったけれど…… その先生が言うにはね、『きっとあの献身的なお友達のおかげですね』って言って下さったの」
なぜか見矢園さんまで嬉しそうな顔をする。ああ、今この瞬間の笑顔を撮って端末(※3)のTOPに貼りたい!
だけど私は見矢園さんのお友達というより未だ、崇拝者や下僕だったし、そうありたいと思っていた。友人や、ましてやそれ以上などと考えるだけで恐ろしい。
「でも、その、私はお友達というよりも……」
「お友達じゃ不満?」
「ぎゃっ逆です! 畏れ多いというか、申し訳ないというか、その、お友達だなんて」
「ふふっ、そういうところが好きなのかも」
「好きっ!?」
「そっ、前にも言ったじゃない…… 結局そうやって全然受け入れてくれないけど」
「だって……」
「もっと自分に自信をもって。あなたは立派よ、素敵よ、もっと胸を張っていいの。あなたのことを悪く言う人がいたら、私が許さないから。守ってあげる、絶対」
涙が出るほど嬉しくなる。私はこの見矢園さんの気持ちに絶対応えたい。応えなくてはいけない。だけど今の私にはその方法がわからなかった。
「ごめんなさい、今日は検査が多くて疲れちゃって。少し寝ててもいい?」
「あ、はい。どうぞ」
見矢園さんは手を差し出す。私はそれを両手で包み込むように握る。見矢園さんはすぐに安心したような寝顔を見せる。聞こえる音と言えば見矢園さんの微かな寝息と空調の音だけ。私は見矢園さんの少し冷たい痩せた手を両手で温めた。細くて骨ばった頼りない手を私はずっと温めていた。そうやって私は見矢園さんのことだけを一心に思ううち、ある一つの考えが浮かぶ。
見矢園さんの退院後、私は今まで以上に見矢園さんに尽くすようになった。下校時の短い時間、マルチグラスで一緒に旧世界クラシック音楽や私の好きなPOPsを聴いたり寂れた大図書館中庭で色々な話をした。特に見矢園さんの音楽に関する情熱には並々ならぬものを感じた。
そんなある日。私たちはいつものように図書館のそばにある古びた石のベンチに腰かけていた。そこで私は見矢園さんに伝えるべきことを言おうと思う。
「見矢園さん」
※2022年10月14日 加筆修正しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます