第15話 好き
遺伝子操作種! ジーンベイビー!
まさか! まさかそんな!
絶望をまとった震える笑顔で呟くように話す見矢園さんは、こちらに視線を合わさず正面の壁を見据えている。
「そう。私は…… 私、私じゃないの…… 『これ』は、『この姿』は私じゃないの」
絶句して言葉が出ない私の代わりに震える笑顔で話を続ける見矢園さん。
「こんな風に生まれるはずじゃなかった私の卵子は、人為的にいじられてこんな人間として生まれてしまったの。私は本来の自然の摂理で生まれるべき姿をしていない。この姿は産みの親の思い描いた絵のようなものなのよ。今の私の姿は両親の妄想を描いたただの絵なの」
「そんな……」
私はようやくその一言を絞り出すのが精一杯だった。
「気がついてなかったの?」
不思議そうな顔でこちらを見る見矢園さん。
「いえ……全然」
「そう……」
見矢園さんはまた私から顔をそらし、優しそうな、それでいて自嘲的な笑いをまた浮かべる。
「優しいのね
「?」
「本当は私の事分っていたから、私が普通の人間ではないと分っていたから、だから、なのよね。だから、わ、私を、その…… 拒絶した」
その言葉を聞いた私はもう泣きそうになって仕方なかった。
「ちがぐっ違うん……私……わっだ、しっ……」
「土鳥さん?」
「ごm、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!私私びっくりしちゃって見矢園さんから私っ、そ、っんな資格無いからっ……」
「そんな事ない、そんな事ないわ」
見矢園さんが優しく声をかけてくれるが、私はもう自分でも何を言っているかわからない。
「私見矢園さんがその私の醜さを憐れんでそのっ同情してっ……だからごめんなさい見矢園さんがそのそんなに苦しんでただなんて知だなくてっ」
涙が止まらない私は両手で顔を覆ってうつむく。
「でも、でもっ! でも今っ、外見の事でその、苦しんでいるなら……見矢園さんも私と同じなのかなって、醜い私と同じなのかなって今少し思っちゃって…… ほんと酷い奴だな私って、ごめんなさいごめんなさい本当に醜いんです私って顔も心もっ!」
「土鳥さん」
「……ごっ、ごめんなさい、ごめん、なさいっ……」
「ありがとう」
「へ?」
余りにも意外な言葉に驚いて身体の動きも涙も止まった私に、見矢園さんはもう一度、もっと優しい声で。
「ありがとう」
驚いて彼女の方を見ると見矢園さんも少し涙を流していた。
「あなたは優しいわ、間違いなく」
「貴女は自分の外見が嫌みたいだけれど、そう考えると確かに土鳥さんが言うように私たちっておんなじね。あなたには意外かも知れないけれど。私もっともっとあなたの事が好きになっちゃいそうよ」
「好き?……はっ?、好きっ?!」
「ええ」
「どうして…」
「うーん、どうしてかしら。ふふ、鯛のあら煮が美味しかったから?」
「そんな……」
「判らないの、自分でも」
「実は私この間こっぴどく振られたの」
「見矢園さんを、振る…?」
あり得ない。あ、それはもしかして。
「まあ、彼女には本当に好きな人がいてね。すっごい美人だったのよ彼女。でも彼女が選んだのはごく普通の子」
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