第14話 操られし者
見矢園さんの慌てる声が聞こえる。
「いやだわ、よして!
私がゆっくり頭を上げると、見矢園さんは身を乗り出して必死の表情だった。その表情に私は少し驚く。
私はゆっくり言葉を続けた。
「私が見矢園さんのお気持ちをはねつけたことで、どれだけ見矢園さんを傷つけたか、そう思うと本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」
「ううん、いいの。それはもういいのよ……」
「でも……」
見矢園さんは何だか複雑な表情をしていた。悲しいような、自嘲的にも見えて、何かを諦めたような、そんな寂しい微笑み。
「だって土鳥さんには分かっていたんでしょう?」
「え、何が、ですか?」
「私のこと」
「見矢園さんのこと……?」
何のことかわからなかった。
「そう。だからなのよね。受け入れられなくて当然」
未矢園さんの言うことが何を指しているのか見当もつかない。
「ああ、そうか…… だから彼女も……」
うつむいて独り言を呟く見矢園さん。
「みんな、みんな私を受け入れてなんかくれない。受け入れやしないの。やっとわかった……」
体が弱いことを苦にしてそんな事を言っているのだろうか。それにしても見矢園さんの独り言にはどこかもっと絶望的な響きを感じる。もっと暗い闇のような。私はその深い暗がりを覗き込んだような気がして少し背筋がぞっとした。
「あの、昨日は私見矢園さんを傷つけてしまいました。それは心からお詫びします。でも、今の私はちゃんと見矢園さんを受け入れたいと、そう思ってここに来ました」
ちゃんと目を見て話したかったけど、見矢園さんはずっと顔を伏せたままだった。
「本当に……?」
見矢園さんがほんの少し顔を上げて私を見る。私の醜い顔を。でも今はそんなこと言ってられない。
「本当に。です」
見矢園さんは身体を私からそむけベッドに座り直す。美しい横顔に寂し気な笑顔を湛えながら、見矢園さんはこう言った。その美しい笑顔は小さく震えていた。
「 私が
▼用語
※
遺伝子を操作し、身体や脳、果ては外見までデザインして産み落とされた人間。またはそのように操作された卵子。
かつてアンドロイドとロボットがその主流になるまで、域外作業やテラフォーミングの作業員はこういった遺伝子操作種に頼っていた。
アンドロイド技術の発展により遺伝子操作種の必要性がなくなると、ただちに非合法化されたが、それでも子供に思い通りの資質を持たせたいとする親からの需要は絶えず、闇組織を通じ秘密裏に処置を施される卵子は後を絶たない。
統合政府の人権委員会の「遺伝子操作種撲滅宣言」でも子孫に対する唾棄すべき犯罪的人権侵害と表現されており、一般社会においても総じて嫌悪の対象となっている。
これを行ったものは二十五年以下の懲役刑、依頼した者については十二年以下の懲役刑が「遺伝子操作規制法」によって定められている。
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