第13話 十二月のトラム
私は取り乱さないようにするので精一杯だった。どうかしたら叫び出してしまいそうだった。
ああ、きっと見矢園さんは私に言い残しておきたいことがあったんだ。私はそれを無下にしてしまった。どうしたらいいの。私って本当に最低。なぜ見矢園さんを受け入れなかったの。自分のことばっかり考えて。見矢園さんの気持ちをもっと汲んであげればよかったのに。
入院って病状は重いのだろうか。苦しい思い辛い思い心細い思いはしていないのだろうか、また学校に戻って来れるんだろうか。できれば会って元気づけてあげたい。
でももう私には、その資格はない。
頭の中でいろいろな考えが同時に湧き上がって、台風のように吹き荒れる。
「土鳥」
先生が私を呼ぶ。
「はい……」
「すまんが病院まで行って見矢園にこれを渡しておいてくれないか。病院内では通信できる場所が限られてるらしいからな。全部じゃないが大体の授業内容はこれに入ってる」
と授業用タブレットを私に渡す。
「お前らは仲が良かったみたいだからな。頼まれてくれるか?」
「はっはいっ!」
あまりにも勢いよく答えてしまったので教室内のあちこちで失笑が漏れる。
「おお、いい返事だ。じゃ、任せたぞ。くれぐれも割ったり失くしたりするなよ」
「はいっ」
その日の放課後、母親に今日は家事ができなくなったことを伝えて走るように私は
トラムに揺られながら私は見矢園さんになんて言えばいいのか、全く思いつかなかった。
詫びればいいのか、心配すればいいのか、慰め元気づければいいのか。
きっとその全部だ。
私が見矢園さんから見下されていたとしても仕方がない。それはもうどうしようもないことだ。だけど、落ち着いてよく考えてみれば見矢園さんがそんなことをする人には思えない。到底思えない。だから私はその見矢園さんを信じて私がしたいことを、ただ眺めて崇拝するのではなく、いたわることをすればいいんだ。それだけなんだ。簡単なことだった。見矢園さんを信じ、私の気持ちも信じること。
トラムの座席で12月初旬の弱々しい照射光に照らされ私は決意する。見矢園さんのためにありたい自分を決意する。
この時、また私は自分の醜さとそれへの嫌悪感を忘れていた。
85分ちょうどかけてトラムは巨大な病院前の停車場に到着した。
私が病院の最上階にある一人部屋の特別室に入るとそれを見つけた
「
「あ、その、こんにちは……」
「一体どうしたの? どうしてここを聞いたの?」
「中井先生から聞いて、その、こ、これを……」
おずおずとタブレットを差し出す。
「まあ、昨日貰い忘れてたのよ。遠かったでしょう、この椅子おかけになって」
見矢園さんは意外と元気そうにパイプ椅子を出してきた。
「ありがとうございます……」
「……」
「……」
互いに言葉が出ない。
「あの」
二人同時に口を開く。二人とも苦笑する。
「来てくれて嬉しい……」
「私も会えて嬉しいです」
「そう、良かった」
「はい……」
良かった、見矢園さんは私が来たことに不快感を示していないようだ。
「昨日は、その…… 本当にすいませんでした」
椅子に座ったまま私は思いっ切り頭を下げた。
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