第12話 拒絶・恐怖・涙・別離
私は全速力で走って逃げだした。あらん限りの力でその手を振り解いて。
背後から見矢園さんの必死な声が聞こえたような気がしたが無視して走り続けた。
怖かった。身体中が恐怖で震えていた。
私が。私が。見矢園さんに? 頭の中で考えがまとまらない。思考が混乱している。
何故? どうして? どうして私に?
私が可哀想な人間だから? 醜くて可哀想だから哀れに思ったの? そうなの? そうだよね。それしか考えられない。
いやだ。それじゃまるで私見矢園さんから見下されてるみたい。哀れな奴だから額にキスくらいはしてやろうだなんて。そんなの私を蔑む周りの人たちと同じだ。私を見て笑う人たちと同じだ。
私の外見を笑おうが気味悪がろうが憐れもうがどっちも同じ。私を醜いと思っていることに違いはないんだから。
結局のところ持てる人は持たない人の気持ちを理解できない。絶対できない。出来やしない。
悔しい。何もかもが悔しい。当たり前の事だと分っているけれど、やはり私って徹頭徹尾底辺の人間だったんだ、と痛感した。
気がつけば八街区の明るい新市街まで思い切り走っていた。すっかり息を切らして疲れた私は、目の前のレオナルディ(※)に飛び込んでボリュームたっぷりのコロベーのダブルとミルクセーキのLを注文した。3階の隅っこのテーブル席に勢いよく腰掛ける。声を押し殺してべそをかきながら一気にコロベーを平らげ飲み込んでからテーブルに突っ伏して気が済むまで泣いた。
何人かの客は私の様子に気付いたようだけど構うものか。そんな事より今は思いっきり泣きたいだけ。
そして憧れと崇拝の対象だった友人の見矢園亜優香にまで見下されていたとわかった私は彼女と親しくなったことを心底後悔した。あのままただの人形として隣で崇めていれば良かったのに。邪な欲をかいたばかりに私は心の拠り所を失くし、明日からどう生きて行けばいいのか。それでも時間は巡り朝は来る。私にも見矢園にも。
布団の中でうずくまった私の中で無念、後悔、怒り、悔しさ、様々な悪感情が私の中で吹き荒れる。
今彼女はどうしているのだろう。知るもんか。そう思ったらまた涙が止まらなくなった。
翌日登校すると見矢園は学校に来ていなかった。
また具合を悪くしたんだろうか。それとも昨日のことがショックで休んだんだろうか。ひどく心配になる自分に気付いたが、頭をぶんぶん振って、今となっては意味のない邪念を振り払った。
朝のHRで見矢園は入院したと担任が告げた。
▼用語
※レオナルディ:
最古にして最大のハンバーガーチェーン。中高生からサラリーマンまで幅広い層からの需要がある。包装紙は白地にオレンジ。可愛らしいクマさんがマスコットキャラクター。
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