第11話 接吻
中間試験も終わった放課後、昇降口でばったり
見矢園さんもびっくりしたようで、ゆっくりと息を整えるとなぜか私を誘ってきた。
「ねえ、もしお時間があったらお付き合いいただけないかしら」
当然答えは一つ。
「勿論ですっ!」
見矢園さんはどこかしら固い、と言うか緊張した面持ちだった。
図書館そばのキッチンカーは夏にはアイスクリーム、冬にはカップスープを売っている。見矢園さんはミネストローネを、私はパンプキンを買って手のひらを温める。今日は予定より気温が低いみたいだ。
図書館の壁に面した冷たい石のベンチに隣り合って腰掛ける。この時期ここには人っ子一人いない。いつも通りたあいのない話をしているけれど、どうも見矢園さん、あまり乗り気じゃないみたい。
そしてようやく何かを吐き出すように言う。
「私ね…… この間からずっと
「ぶっ?」
危うくスープを吹くところだった。
「へ、変なことを言わないで下さいっ!」
私は半ばむきになって反発した。
「変じゃない」
その見矢園さんの声も少しむきになっているように聞こえた。すぐ隣の見矢園さんに視線を送るとその表情が固いのがわかる。
「……変です」
真剣な表情の見矢園さんに凝視され、私の視線はあちこちをさ迷う。あまりの美しさにとてもじゃないが正視できない。心臓が苦しい。ドキドキが止まらない。
「じゃ、どう変なの?」
見矢園さんの追及の手は休む事を知らない。
私は何度か言葉を吐き出そうとしては口をつぐみ、また何か言おうとしては黙る。自分の苦悩を、苦痛を、果たして見矢園さんは理解してくれるのだろうか。私を理解してもらいたい私と、私のことなんて理解してもらえるはずもないと思う私が私の中で戦っている。
そして私は絞り出すようにして生まれて初めて他人に自分の心情を吐露した。
「……ス、から、で……す」
「えつ?」
「ブスだからですっ! 私が見矢園さんから憧れられるにふさわしい外見を有していないからですっ! 私は見矢園さんに見合った人間じゃないからです!」
一気にまくし立てて見矢園さんから目を放してうつむく私。見矢園さんの方をちらりと覗き見ると心底驚いた顔をしているように見える。見矢園さんは少しかすれた声で私に声をかける。
「そうなの。土鳥さんは自分にそんなに強いコンプレックスを……」
黙ったまま何も言えない私。惨めな気持ちでいっぱいだ。そう、本当はさっきのように見矢園さんから憧れるだのなんだのって言われるたび、苦しかった。見矢園さんに釣り合わない自分の醜さが辛かった。ああ、消えていなくなりたい。地べたの模造石材がじわりと歪んで見える。こんな冷たい無味乾燥な石の方がずっと私より美しいのに。
すると見矢園さんも私同様うつむいて言う。
「ごめんなさい。あなたを傷つける意図はなかったの。ただ私の気持ちを知って欲しくて」
見矢園さんの気持ち? 今の私の気持ちはどうなるの。自分の醜さへの嫌悪で死んでしまいたいくらいの私の気持ちは。
正直なところ見矢園さんの気持ちを汲む余裕はなかった。今はただ私の心の中で吹き荒れる気持ちが整理できず混乱するばかりだった。
「可哀想に。土鳥さんはずっと苦しかったのね。あなたは自分をすごく卑下しているみたいだけれど、私は逆。私は」
そっと両手を私の両側頭部に添える見矢園さん。その手で私の顔を見矢園さんの方に向かせる。見矢園さんの優し気な微笑み。美しい。息が止まりそうなほど美しい瞳。その顔がゆっくり私に近づいて。
私の額に見矢園さんの唇が触れた。
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