第7話 立ち尽くす人影
それによると交際を始めてわずか一週間で二人は破局したという。それも生明さんには本当に好きな人がいたとのことで、そのお相手は何と篠さんだったそうだ。
しかも二人と同じE組の岡屋初美さんは篠さんのことが好きだったそうで、四人が乱闘寸前の騒ぎにまでいったのだとか。
さすがにそれはないと思ったけれど、なんでもマス研のゴシップ班が張っていたので間違いない話だと植山さんは主張する。
でも、じゃあ何で生明さんは好きな人がいるのに
植山さんになぜ生明さんがそんな事をしたのか尋ねてみてもよくわからないようだ。
「さっすがに心の中までは覗けないもんねぇ。まあ、全校一の絶世の美女の誘いについくらくらとつまづいちゃった、とかそんなとこなんじゃない? あ、ねぇねぇ、里ちゃんもゴシップ班に入ってみない? 里ちゃんもこういう話好きそうだし」
私はその植山さんの勧誘を丁重に断り、その場を去った。
翌日、拍子抜けするほどいつも通りに登校してきた見矢園さんに、私は芯の強さを見たような気がした。
「あ、あの、もう大丈夫、ですか?」
「ええ、もうすっかり元気、ありがとう土鳥さん」
と言いつつ見矢園さんの表情は固いように見える。
そしてやはり気持ちが身体に来たのか、見矢園さんの保健室へ行く回数は僅かに増えた。
そんな夏季に入ったある日のこと。
私は学校帰りに買い物をしていた。遊びの買い物じゃなくて生活のための。うちは共働きで食べ盛りの少年が三人もいるから大変だ。
商店街の魚屋でかなり珍しいけど安くておいしい鯛のアラを見つけた。重いが頑張って持ち帰ろう。あと、どうしようか考えてごぼうも買った。うちはやっぱりごぼうを入れたい。
重たいアラを持って帰る途中で雨が降り出した。うっかり忘れてたけど16:00から降雨だった。失敗した。カバンから傘を出して旭第一公園をショートカットすると五街区(※)への近道だ。
でも公園の芝生の上に人が立ちつくしてる。なんで? どうして? この雨の中。物好きな人が何かのパフォーマンスでもしているのかな。少しうさんくさいので、私の進路を妨害するような場所に立っているその人物からなるべく距離をとって通り過ぎようとする。近づくにつれ髪の長い女性だと判る。うちの高校の生徒だと判る。少し背が高くて痩せててきれいで…… 間違いない、それは見矢園さんだった。
▼用語
※街区:
ここでは所得や社会的地位に応じて居住可能な街区が厳密に定められている。十から上の街区は一般的に高級住宅街とされる。
四街区までは人間の非居住地域。五街区は低所得者層向け。八街区は中の上所得者層向け。十二街区は大企業要職や政府高官が居住する。ちなみに十五街区は「殿上人」つまり政財界の要人が住まう。十~十二街区には小奇麗な観光施設も多く、デートコースの定番。ごく簡単な手続きを取ればほとんどの人が入れる。十、十一街区は許可なく出入りが可能。十三街区以降に入るにはそこの住人の許可でもない限り厳しい審査が必要。
現在、アンドロイドは例え非感情型(ロボット型)アンドロイドであっても十街区以上の街区への侵入は禁止されている。
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