第6話 急転に次ぐ急転

 唐突な、あまりにも唐突な成り行きで私は見矢園みやそのさんの友達になった。天にも昇るような気持だった。崇拝の対象から手を差し伸べられて、同じステージへ昇らせてもらったような気がした。

 でもそれは違っていて、見矢園さんにとっての一番はやはり恋人の生明あさみさんだ。

 そう思った時、なんだ、私は結局二番目以下の人間なんだ、と気づいた。そして無意識のうちに見矢園さんにとっての一番を求めていた自分に気づきその浅ましさやさもしさにまたもや吐き気を覚えるのだった。


 ところがその翌週、状況は急変する。


 月曜日、教室に入った見矢園さんは、そのまま保健室に連れて行った方が良さそうなほど青ざめていて、表情もルナセラミック(※)ように硬かった。


「見矢園さん、見矢園さん? 大丈夫ですか? 具合悪いんじゃないですか?」


 私は声をかける。私でなくても誰だって心配して声をかけるだろう。それぐらいひどい表情だった。


「うん、ありがとう。大丈夫。大丈夫だから……」


 と、見矢園さんは答えるものの無理をしているのは目に見えている。

 結局HR中に私の方から手を挙げて見矢園さんを保健室に半ば無理やり連れて行った。


 見矢園さんは不満そうだったが、ベッドに入るとすぐに小さな寝息を立てて寝てしまった。

 私は枕元の丸椅子にかけ、その寝姿を眺めながら思う。

 崇拝の対象で私がよこしまな想いを抱いてはいけない対象にして、そして今では……たぶん友人。

 その友人に何があったのだろう。よほど辛いこと、ショックなことがあったに違いない。

 それはきっと生明さんと……


 その予想、妄想に胸が躍る自分が嫌だった。その心の醜さが嫌だった。私は外見だけでなく心まで醜くて卑しい。情けなくて、悔しくて、自分が嫌で嫌で涙が出た。それを手で拭う。


「泣いているの?」


 その声にビクッとした。気が付くと見矢園さんがこちらをじっと見ていた。

 何も言い出せなかった。


「ごめんね……」


 その言葉にどんな意味が含まれているか分からなかったけど、悪い意味ではなさそうだ。“そんなことない”の意味で私は頭を横に振った。

 未矢園さんが心細そうな表情で毛布の下からそっと手を差し出す。私は思わずそれを両手で包みこむようにして握った。


「ありがとう……」


 そう言うと見矢園さんはまた眠りに落ちていった。


 結局その日は午前中ずっと保健室にいた見矢園さんは、体調が回復せず、昼休み前に早退することになった。でも体調不良の主要因はやはり精神的なもののように私には思えた。


 午後の授業が始まる前、私はB組の植山さんを探した。



▼用語

※ルナセラミック:

惑星ローワンの三つの衛星(プルートス、ダミアー、カローン)から産出される土で作られるセラミック。素朴な、もしくは冷たい色合いがする。

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