第5話 羨みと憧れ
翌日からの私は学校に行くのが辛い毎日だった。左隣の
数Iの授業中つい見矢園さんに目を向けると微笑んでいた。授業中に笑顔を見せるなんて初めてのことだ。
きっと
見矢園さんはとてつもない美人なんだから、それはもう誰だって、異性だろうと同性だろうと二つ返事で受け入れるに違いない。私には絶対あり得ないシチュエーション。私のような醜い女を受け入れる人は男性でも女性でもあり得るのだろうか。そう思うと笑顔の見矢園さんの隣の席の私は少し涙がこぼれた。
具合の悪くなった見矢園さんの保健室への付き添いをしていると、それほど具合が悪くなさそうに見える時が増えた。実際、薬を飲むこともない。
そんな時は大概保健室で生明さんと会う。きっと二人で示し合わせてサボタージュしているんだ。私は勝手にそう想像した。
生明さんがいたり、あとから来たりすると、私はまるで逃げるように保健室から退出して授業に戻った。悲しかった。なんだか私の居場所がなくなってしまったかのようで。
そして浅ましい自分を呪った。
ただただ眺めて崇拝するだけの対象にしていればよかったものの、私は見矢園さんになんて
この悲しみや苦しみはその罰だ。私はそれを甘んじて受けなくてはならない。
「本当にいつもいつもごめんなさい。
ある日の午後、見矢園さんは保健室でそう言った。本当に具合が悪そうだった。薬を二種類も飲んでいたから。
「いえ、委員の仕事をしているだけですから……」
ねぎらいの言葉をもらってもあまりうれしくない。だって社交辞令だから。
「私羨ましい」
「何が、です?」
「土鳥さんが」
「えっ」
言っている意味が分からなかった。でもすぐ後にはからかわれているんだと思った私は少し腹が立った。
「か、からかわないで下さい」
「からかってない」
見矢園さんの笑顔がまぶしい。まぶしすぎて正視できず私は俯く。その私を信じ切ったかに見える笑顔に促されるようにして、私はつい言わなくてもいい言葉が口を吐いて出る。
「そ、」
「?」
つい口を吐いて出てしまった。私は一瞬ためらった後言葉を続けた。
「そんな見矢園さん、だって、私、憧れているんですからっ」
「憧れる?」
「はい」
「私に?」
「はい」
見矢園さんはふふっと笑った。
「面白いのね、土鳥さん」
「そんなことありません! 見矢園さんは私の憧れで崇拝の対象なんです!」
必死な表情の私を見て見矢園さんはまた笑った。
「私なんか拝んでも何の御利益もありませんよ」
笑った後、今度は少し真面目な顔をする。
「そう、そうね。そうだったの。私たちお互いに羨ましがったり憧れたりしてたのね…… ねえ、お友達になれそうじゃない? 私たち」
「ええっ!」
私にとっては突拍子もない話だった。
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