第4話 悪い知らせ
「里ちゃん里ちゃん」
休み時間にロッカーから絵の具を取りに行った私は、B組の植山さんに呼び止められた。表面的にはお友達付き合いをしているけれど、噂が大好きな危険人物だ。
「びっくりするような話聞いちゃったんだけど」
校内のびっくりするような噂話なんて別に聞いても聞かなくてもいいとは思ったけれど、植山さんは勝手に話を続けた。
その内容に私はびっくりした。
「ほら、里ちゃんの、と・な・り・の・ひ・と」
その隣の
私は一瞬目の前が真っ暗になる様な衝撃を受けた。頭をとんかちで殴られたようだ。植山さんは一人で得意気に喋っている。
「間違いないって。見矢園さんが篠さんに手紙を手渡していたんだって言うんだから。手紙よ、手紙。紙の手紙。どうしてメッセージカード(※)にしないの。普通だったらそうするよね。でもあんなにくっらーい感じなのにやるときはやるのねえ、しかも女の子が好きだったなんてねえ。どしたの?」
まさか、あり得ない。
「うそ」
無意識のうちにぽつりと呟く。
「うそじゃないって。マス研の八重垣さんだって、あとはほら、『そういうの』が大好きなアニ漫研の奴らだって既にこの情報を掴んでいるんだから」
「そ、そうなんだ」
動揺を押さえつつし静かな受け答えをしたのとは裏腹に、私の頭と心には風速八十メートルの猛嵐が吹き荒れていた。
本当に、本当に篠さんなの。
「あ」
「なになにどうしたの? 里ちゃんも何か心当たりある? 隣の席だし。教えて教えて」
「ううん、何でもない。何にもない」
この間、保健室で私を遠ざけたかった理由が推測から確信に変わった。篠さんは単に保健室へ行ったらすぐ出ていくだけで、私や見矢園さんとほとんど会話をすることはなかった。あそこにずっといたのは。
見矢園さんが必要以上に保健室へ行きたがってさえいる様な素振りを見せていたのは、見矢園さんが生明さんに好意を寄せるようになっていたからだと考えると納得できる。
そして篠さんは生明さんと接点がある。だからその篠さんに手紙を託したんだ。それに生明さんは「女の子じゃないとだめな人」で有名だ。だから見矢園さんは生明さんなら、ってそう思ったのかも知れない。
私は植山さんと別れて絵画教室に向かう間、足が鉛に、いや全身が鉛のように重い気分だった。のろのろと絵画教室に入り、見矢園さんからなるべく遠い席について見矢園さんの方を出来るだけ見ずに一人授業を受けた。
身体中が水のように冷たい。心臓が凍りそうだ。
きっと邪な気持ちから来ているに違いないこの感覚を、私は持て余していた。
▼用語
※メッセージカード:
旧世界のグリーティングカードとは違って、千文字程度までの簡単なメッセージをやり取りする時に使われる電子カード。一般的にはあまり普及してはいないが、子供たちの間で流行っている。高校生くらいまでの児童生徒たちの間で人気なのは、主に使い捨てでホログラム映像なども添付できる、安価で様々な人気キャラクター等のデザインが凝らされたもの。リサイクル可。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます