第2話 保健室の常連
幸いなことに私は嘘を吐くことが上手かった。
塞ぎ込む自分の心に嘘を吐いて、周りにも嘘を吐いて、色々な人に溶け込むことが出来た。口の悪い男子はときどき私の容姿をばかにする発言をしたが、その
クラス委員を決める時私は率先して保健委員をかって出た。と言うのも見矢園さんはひどい虚弱体質で授業中に体調を崩すことが多かったからだ。見矢園さんがいるおかげで皆保健委員になるのを敬遠していたから、これは無投票ですんなり決まった。
そしておとといも現国の授業中見矢園さんは具合を悪くした。
「見矢園さん、具合よくないんですか?」
左隣に入る見矢園さんに私は声をかけた。俯き加減で青ざめ少し息が早くて浅い。いつもの症状だ。
「え、ええ、ちょっと、ね。大丈夫すぐ良くなるから」
いつもの見矢園さんの受け答えだ。そしてこれは大抵の場合すぐ良くはならない。
「あの、先生…… 保健室に行ってもよろしいですか」
私は現国の沼端先生におずおずと声をかけた。学校内で自分から発言するだなんて、普段の私ならかなり勇気のいることだ。だけど私は見矢園さんのためなら何でもする。何でもできる。
先生は私と隣の見矢園さんを見てすぐに状況を理解したようで、私たちは先生の許可をもらって保健室へ向かった。
私の肩を借り、浅くて荒い息をしながら苦しそうにしている見矢園さんが不憫だったけれど、私にはそんな見矢園さんですら美しく感じられる。と同時に、そう感じる自分が少し怖かった。
保健室に着いて、見矢園さんを寝かせるのを手伝う。見矢園さんの背に手を添えゆっくり寝かせる。私ごときが見矢園さんに触れられるなんて。舞い上がる様な気持ちを抑えながら水を注いだセラミックカップを手渡すと、見矢園さんはそれで粒の小さな錠剤を二錠飲む。飲み残しのあるカップを受け取った私は、こっそりこの水を飲もうかと思ったが、さすがにそれはやめた。
ベッドに横になり深いため息を吐く見矢園さん。
「ありがとう
細くてきれいで頼りなげな声で囁く見矢園さん。心なしか悲しげな顔だ。
一方で私の方は、見矢園さんからねぎらいの言葉を聞かされるだけでなく、こうして間近にいられるだけで無上の喜びを感じた。
「全然、そんなの気にしないで下さい。私はこうしてお役に立てただけでも嬉しいんです」
ちょっと言い過ぎかな。いや、そんなことはない。もしかすると見矢園さんのために何かをすることが今の私の生きがいなのかも知れない。
「そう、優しいのね、土鳥さんは。でも授業の邪魔しちゃ悪いわ。もう帰って。ね」
でもまだ見矢園さんのことが心配だし、養護教諭はいないし、私もずっと見矢園さんのそばにいたいし。そう思って口を開いた。
「だめですよ。まだ心配です。それに今日の授業なんて――」
ガラガラっと大きな音を立てて扉が開く。こういう開け方する人は苦手だ。
「失礼しまーす。あ、」
「あ、」
「あ、」
保健室に入ってきた二人と見矢園さんが一斉に声を上げた。
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