【ブス百合】取り残された島のRomanceIII/醜い鳥の空―不細工過ぎる私が崇拝する美人クラスメイトと百合関係にハマるまで<里子と亜優香の場合>

永倉圭夏

第1話 ブスの崇める神

 正直言って私はこの顔が嫌だ。誰だってこの顔を持って生まれたら同じ思いを抱くに違いない。心底嫌いだ。許せない。悔しい。情けない。親を怨む。


 つまり私はブスなのだ。


 正面切って笑われることが少なかったり、あからさまないじめの対象にならなかったのは運が良かったからに過ぎない。それ以上でもそれ以下でもない。それでも工藤と菊池と北原がひそひそと陰で私を笑っていたのは見かけたことがある。私は忍び足でその場からそっと立ち去った。まるで私が悪い事をしているかのように。そう、ブスはそれだけで悪なのだ。絶対悪。悔しい。私だってこんな顔に生まれたくなかったのに。なんで人間は顔を選んで生まれる事が出来ないんだ。理不尽だ。


 化粧でもすれば少しはましになるかも知れないと夢想した時もあった。でもブスがする化粧はウソつきが吐くウソと同じだと気づいた。文字通り真実を糊塗ことするだけ。美人が自分をより美しく見せる為の上昇的意識高い系化粧とは本質が違う。私はどう頑張ってもウソつきにしかなれない。そう気付いた中学生の頃妄想に思いをはせるの止めた。バカみたい。ほんとうに私ってバカみたい。


 生まれ変われるなら。それくらいの妄想が許されるなら。どこの誰から生まれたって構わない。金持ちの家になんか生まれなくたって構わない。私は美人に生まれ変わりたい。それもそこら辺の可愛い女の子なんかじゃない。一目見ただけで誰でも息が詰まる様な。

 そう、例えるなら見矢園みやそのさん。左隣の席にいる見矢園亜優香あゆかのような。


 見矢園亜優香。私の崇拝の信奉の鑑賞の嘆息の癒しの対象。彼女はその全てが美しかった。今はもう情報統制によって見ることができないが、初めて人権を獲得したアンドロイド(※1)にして人類の敵、アスター・シリル(※2)もかくやと私は勝手に妄想している。


 その指先一つの動きから手が脚が身体が指が目が瞳がまつ毛が眉毛が。

 座席で姿勢を直す姿が。

 小さくくしゃみをする仕草が。 

 雨に打たれ下駄箱に駆け込む時の濡れた長い髪が。

 体育の授業でやたら遅く走るほっそりとした姿が。

 水泳でこれもまたひどくゆっくりとして白魚のようにしなやかに泳ぐ姿が。

 美術でモデルをする姿だけでなく髪を束ねてデッサンをする姿が。

 音楽室で夢中でピアノを弾く姿が。


 そんな見矢園さんを眺めている時、私は自分の醜さを一瞬忘れる事が出来た。


▼用語

※1アンドロイド:

 いくつかの惑星のテラフォーミング用に開発された人型機械。人間の姿を模しており、強靭頑健で精密な作業も難なくこなし労働争議も起こさない。これによってテラフォーミングの工程は大幅に短縮された。

 しかしアンドロイドの中に“心”が芽生える機体が現れるようになると人類と“心”あるアンドロイドの軋轢が深刻化。遂に「ルカ・ロシュの惨禍」を経てその対立は決定的となる。これ以降人類統合政府とアンドロイド連合は激しい戦闘を繰り広げている。アンドロイド連合は惑星ローワンの約七割を制圧し優勢を保っている。


※2アスター・シリル:

 機体登録呼称矢木澤シリル。機種名AF - 705。シリアルナンバーN523J8975HR。アスターは称号のようなもので、ギリシャ語で“星”を意味する。また鑑賞植物である紫苑しおんの英名でもある。

 アンドロイドでありながら人間と同等の“心”を手に入れたと主張し、パートナーの島谷伊緒医師、盟友の荻嶋希美代らと共に活動を続けた結果、非人類としては初めて「基本的人権」を獲得する。

 その後の人類統合政府とアンドロイド連合との間で戦端が開かれた戦争勃発時、双方に停戦を訴えるもその直後に消息を断つ。

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