第2話:一を百にする方法

夏休みが始まって数日が経ったある日の朝。

特にすることもなく、クーラーの効いた部屋で寝転がっていた茉里乃の携帯に綺良からメッセージが届いた。


綺良『百万円の話、覚えてる?』


もちろん茉里乃は覚えていた。

それは綺良と始めて交わした会話だったからだ。


茉里乃『プールでプリン作るってやつ?』


綺良『そうそう。あの夢な、叶えてほしいねん』


茉里乃『うちに?』


綺良『うん』


茉里乃『きらちゃん、百万円持ってるん?』


綺良『持ってるわけないやん』


茉里乃『どういうこと?』


やっぱり綺良は変わった子だと、茉里乃は改めて思った。


綺良『百万円は持ってないけど、一万円ならあるで』


茉里乃『一万円分のプリンを作るってこと?』


綺良『違う違う。一万円でプールいっぱいのプリンを作りたいねん』


茉里乃『シャバシャバになるで』


綺良『やっぱ無理なんかな』


茉里乃『ちょっと考えてみるわ』


百万円あったってプールいっぱいのプリンが作れるかは定かではない。

ましてや一万円でどうしろというのだ。

一を百にする方法なんて、果てして自分に思いつくだろうか。

無茶なお願いをされたもんだと呆れながらも、茉里乃は気持ちが高ぶっていた。

綺良の夢を叶えることで退屈な日常から抜け出せる予感がしたからだ。


14時を過ぎた頃、綺良が茉里乃の家にやって来た。

茉里乃の部屋に招かれると、綺良は何も言わず一万円札とコンビニで買ったプリンを茉里乃に差し出した。

茉里乃は素直にそれを受け取ると、プリンを食べながら綺良の夢を叶える方法を考え始めた。

こうして、茉里乃と綺良の長い夏休みが始まった。



つづく。

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