夢で逢えたら

@smile_cheese

第1話:主人公とその親友

櫻坂高校2年生の幸阪茉里乃は登校してくる生徒たちを教室の窓から眺めていた。

いつもと変わらない風景に茉里乃は退屈していた。

何か自分の人生が大きく変わるような出来事は起きないものか。

あるいは、自分の人生を変えてくれるような人が現れないものか。

茉里乃はそんな他人任せなことを考えながら平穏な日々を過ごしていた。

茉里乃は物語の主人公には憧れず、主人公の親友に憧れるタイプなのだ。

茉里乃は深くため息をついた。

今日も自分の前に主人公は現れないのか。

もうすぐ始業のベルが鳴る。

駆け足で登校してくる生徒たち。

茉里乃はその中に母親らしき人物と一緒に登校してくる生徒がいることに気がついた。


幸阪(あの子、転校生やな)


茉里乃には確信があった。

なぜなら、数日前から茉里乃の隣に新しい席が用意されていたからだ。

もしかしたら、あの転校生は自分の待ち望んでいた存在かもしれない。

茉里乃は期待に胸を膨らませていた。

始業のベルが鳴ると、担任の先生が一人の女の子を連れて教室にやって来た。

茉里乃の予想は的中していた。

その女の子は茉里乃が教室の窓から見つけた女の子だった。


『増本綺良』


それが女の子の名前だった。

主人公にぴったりの名前だと茉里乃は思った。

綺良は自己紹介を済ませると、茉里乃の隣の席へと案内された。


茉里乃「よろしく、増本さん」


綺良「あ、うん。えーと…」


茉里乃「幸阪。幸阪茉里乃」


綺良「幸阪さん。よろしくお願いします」


ホームルームでは、先生が夏休み前の注意事項を読み上げていた。

茉里乃はそんなことよりも綺良のことで頭がいっぱいだった。

彼女のことをもっと知りたいと思った。

先生の言葉を上の空で聞いていると、肩をボールペンで突っつかれていることに気がついた。


綺良「ねえねえ、幸阪さん」


茉里乃「あ、ごめん。ぼーっとしてた。どうしたん?」


綺良「百万円あったら、何がしたいですか?」


茉里乃「え?」


突然、突きつけられた予想外の質問に茉里乃は戸惑った。


茉里乃「百万円?(初対面の相手にする質問か?)」


綺良「そうです。百万円です」


綺良は茉里乃の目をじっと見つめた。


茉里乃「うーん、なんやろ?海外旅行とかかな…ごめん、すぐには思いつかへんわ」


綺良「そうですか。浮かんだらまた教えてください」


茉里乃「う、うん。増本さんは?百万円あったら、何がしたいん?」


綺良「聞きたいですか?」


綺良は得意気な表情で茉里乃に尋ねた。


茉里乃「うん。聞かせて」


綺良「学校のプールで大きなプリンを作りたいです」


茉里乃「小学生みたいなこと言うやん」


茉里乃は綺良の口から飛び出した意外な答えに思わずツッコミを入れてしまった。

綺良の反応はなんだか嬉しそうだった。

変な転校生だなと茉里乃は思ったが、これがきっかけで綺良とはすぐに意気投合したのだった。


つづく。

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