194 記憶のなかのかくれんぼ

―――迷子をさがしに…ミイナ姫・コウキ王子




「すみません…勝手に飛び出したりして…。」



早足をとめ、くるっと振り返るミイナちゃん。たしかに現場責任者の意見を聞かずに飛び出したことは…まぁ、められたことではないが、事態が事態。謝る必要まではないと思う。気をつかったわけではなく、本心からそう思うので、そのままの言葉をつむぐ。



「いえ、良いんですよ。モンスター侵攻しんこう中に行方不明となれば、それは誰だって心配になるものです。」


「…ありがとうございます。えっと…?」


「あ…僕はコウキと言います。リンゴ王国の冒険者です。」


「ミイナです。はじめまして。」



上品に会釈えしゃくするミイナちゃん。微笑ほほえむときにちょっとうつむく、昔のままだ。



―――はじめましてじゃ…ないんだけど…。



本当に忘れられてしまったらしい。かくれんぼはもちろん、退屈のあまりパーティーを抜け出して大冒険に繰り出したことも…僕にとっては大切な思い出だったのだが…運命はときに残酷らしい。



―――はぁ…。



ついてはいけないため息。外にもれないよう、必死で押しとどめる。







この辺りは何度も冒険しているので、地理は細部まで把握している。子どもが入っていきそうな横道となると…ここを右手に入った林道が怪しい。



「ミイナさん、ここに昔使われていた林道がありまして…うん、草がまれてるな…こっちへ行ってみましょう。」


「はい。」



素直すなおに後ろをてくてくついてくるミイナちゃん。もう少し警戒心を持った方が良いと思うが、これからは僕が守っていくから大丈夫。飛び出した枝葉えだはを押しのけて、道なき道を進む。剣で切り倒したいところだが、切った枝の先が刺さりでもしたら一大事だ。跳ね返りにも注意して、丁寧に枝をどかす。



「それで…どんな格好をしているとか…そのあたりはわかりますか?」



草木いりくむ場所であるため、暗い色の服装だと見落としかねない。進むスピードを考えるべく、一応聞いておく。



「えっと…紺色こんいろのシャツにカーキー色のズボンというコーディネートだそうです。…あの、本当によろしいのですか?私ひとりでも大丈夫ですし、町の防衛ぼうえいの方にお力を使っていただいた方が…。」


「ご心配なく。あちらには優秀な指揮官がおいでのようでしたし…コウタさんにお任せすれば大丈夫で…ん?コウタさん…どこかで聞いたことあるような…?」


「コウタ先生は、魔法学部まほうがくぶで教授をされているお方です。魔法に関する講演などもされていて、コロン先生とともに現代魔法学の権威けんいに名を連ねておられます。」


「え!?あのコウタ氏が当地に!?」



そうだ、現代魔法学の双璧そうへき、コロン氏とコウタ氏。国の防衛会議やギルドの冒険者会議で何度も耳にしたお名前だ。ダンジョン攻略に魔法使いは必須と言われている現在、わが国でも魔法使い養成機関を複数設置した。マジェスティックのそれには遠く及ばないが、着実な成果をあげていると自負している。



「…はい。魔法学部の研修旅行でして、町に防御魔法をはっていたのは学生の皆さんです。」


「そ、そうだったんですか。…って、え!?あの魔法、学生さんのものなんですかっ!?いや、どう考えても上級魔法使いのレベルですよ。やっぱりすごいな魔法学部…。…あ…これは失礼、取り乱しました。実は僕、魔法使いに強いあこがれがありまして。残念なことに僕ではもう難しいそうなんですが…。」


「魔法の力…ですよね。私の友だちも、それで悩まれていた時期があります。」



コロン氏の有名な著書ちょしょによると、物理的な能力と魔法的な能力はシーソーの関係性にあるとされている。つまり、剣士として10年近く活動してきた僕は、魔法的な能力が最低のラインまで落ちてしまった。大変に残念なことに、現在の理論では、ここからの復活は見込めないらしい。



「もう少しはやく…いえ、僕たちが魔法を過去の遺物いぶつとして、まともに見ようとしなかったことが原因なのです。コロン氏の論文は昔から学会誌に掲載されていましたし、僕の目が節穴ふしあなだったということです。」


「コウキさん…。」


「すみません、暗い話をしてしまいましたね。そろそろ林道を抜けるはずです。先にはたしか泉があったと記憶していますが…。」



木々の密度がさがり、だんだんと明るくなってきた。

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