192 隙をつくる

2層目そうめ防御魔法ぼうぎょまほうが残り1枚となった。これを破られてしまうと、町への直接攻撃をゆるす可能性がある。もちろんギルドマスターさくのトラップ、いわゆるほりがあるため、侵入そのものを許すわけではない。ただ、モンスターもさるもので、遠距離攻撃を仕掛けてくるのだ。やりとか剣とか、思いっきり投げつけてくる。



―――ここまでだな。



「皆さん、一旦下がって!遠距離攻撃が当たらないように、町をおおうように防御魔法を!」


「は、はいっ!」



ここからは、先輩せんぱい冒険者の仕事だ。俺が冒険者に数えられるのかはさておき、研修旅行けんしゅうりょこうの責任者としての仕事である。学生さんたちを、これ以上の危険にさらすわけにはいかない。ちなみに講師こうしの皆さんには、学生さんのさりげないフォローをお願いしている。



―――さてと…。



鎌を大きくふりかぶるモンスター。最後の防御魔法に、渾身こんしんの一撃が迫る。



等価消失ディス・リターンド



俺の魔法により防御魔法は消滅。標的を失った一撃は、空を切り大地へと向かう。



上下左右の反転リフレクション



標的となった大地がわずかに光る。かまの先が触れた次の瞬間。



―――ゴギュアァァァッ



限界まで押し縮められていた空気が解放されるように、モンスターを吹き飛ばした。見栄みばえ重視で爆発のような演出をえて。間髪かんはつを入れず、俺は防御魔法を多重展開する。



「うそ…攻撃が止まってる…。」


「僕たちと同じ防御魔法のはずなのに…。」



モンスターたちは迷っている。目の前で起きた光景を受け、本能的に恐怖を感じているのだろう。防御魔法に触れてはいけない…と。


リフレクションは、攻撃を反射する魔法だ。物理的な威力をかがみのごとく跳ね返すもので、時には防御魔法以上に役立つ魔法。しかし、この魔法を使う魔法使いは少ない。理由は単純で、攻撃自体は通ってしまうのだ。鏡に例えるならば、鏡自体は割れてしまう。つまり、防御しているわけではない。その証拠に、鎌の攻撃を受けた大地は大きくえぐれている。



「よし…あとは戦況せんきょうの維持を。」



ギルドマスター以下職員の皆さんが、弓矢ゆみやでの攻撃を開始する。防御魔法は一方通行的な仕組みなので、味方側からの攻撃は普通に通る。触れてはいけないと認識された壁をすりぬける攻撃。モンスターは混乱のきわみだろう。ふはは、これが魔法の神髄しんずい。ドヤァ。


…と、ずいぶん上から目線で格好かっこうつけたような自分語りをしてしまったが、冒険者にとってはごく普通の戦術せんじゅつだったりする。夢幻崩壊むげんほうかいみたいな未承認魔法はともかくとして、リフレクションを使った遅延ちえん戦闘は、最近のトレンドなのだ。ちなみに考案者は、当然のごとくコロンさん…。



―――学生さんたちくらいしか驚いてないし。



まだまだ学ぶことが多いようだ。お互いに。

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