191 満点と仕事

ことモンスターにとって、数は力だ。冒険者の肉体は屈強くっきょうであるが、あくまでも生身なまみの人間。疲れもするし、限界だってある。モンスターにはそれがない。最先端魔法学の理解をえた魔法まほうにより動いている存在であり、何度でもよみがえる。ゲーム的に言うところのリスボーンだ。


では、その力の前に人々は無力むりょくかというと、断じてそうではない。


例えば今、俺は魔法でプライアントを数体ほふった。常識外の魔法により再出現するのだが、それは「今、ここで」というわけではないのだ。一定の時間がかかるうえ、ある特定の場所で再出現することになっている。何が言いたいかというと、とにかく数を減らすことが大切なのだ。



オーバーレイ・アクト効率化ッ!夢幻崩壊むげんほうかいあらためうたっ!」



ギルド未承認、この世界に存在してはならない魔法を連発する俺。町まで数十メートルの距離に迫った大軍勢を、力を合わせて迎え撃つ。砂浜に残したメッセージ、冒険者がここに着くまで、おそらく数分、その時間稼ぎができれば良い。


オーバーレイ・アクトは魔法使い版の強化魔法。夢幻崩壊むげんほうかいは、モンスターを動かす力を阻害する魔法。モンスターたちは、電池が切れたラジコンのように停止する。低レベルたいのモンスターならば、完全停止させることだって可能。あとはにお任せしよう。



「「「ウォーター・ボールッ!」」」



息ぴったりに魔法を連射する学生さん…いや、冒険者の皆さん。町の方たちも、防衛設備を操っての応戦。集中砲火ほうかを受けたモンスターたちは、避けることも許されずに光の粒子りゅうしとなる。


モンスターの大軍勢は強行突破をはかるが、ギルドマスター作のトラップが行く手を阻む。町を囲むように掘られた幅3メートルほどの堀。これを数名で作り上げるのだから、冒険者ってやっぱりすごいと思う。



「先生っ、上空から新手あらて!」



くちばしがするどい、プテラノドンのような鳥型のモンスター。数は20体程度。それにしても、空からとは卑怯ひきょうな。ギルドマスターの努力が無駄になってしまう。そうはさせまいと魔法を再構築。



雷撃の抱擁ライトニング・ネットッ!」



触れるとビリビリするネットが、空中に広がる。触れている時間かけるダメージなので、威力いりょくはそこまでない。しかし、侵入を防ぐ目的としては十分であるうえ、使い方次第では最強クラスに化ける。



「「「防御魔法っ!」」」



再び息のあった詠唱えいしょうが町に響く。多重展開たじゅうてんかいされた防御魔法が、モンスターをライトニング・ネットに押し付ける。上空には攻撃魔法が届かないと分析し、敵の行動阻害にシフトする。我が教え子ながら、ファンタスティックでアメイジングな判断だ。



―――100点満点っ!



なんなら120点くらいあげたい気持ち。さらに一事にとらわれることもなく、すぐに正面の敵への対処を始める。もう、200点あげます。



―――おっと…これは…。



新手の登場に、少し風向きが変わった。モンスターの大軍勢、その本体が見えてきたのだ。巨大なこん棒を振り回している巨人型のモンスターが数体、その周囲をかまを構えたモンスター十数体が固めている。今までのプライアントやゴブリンとはレベルが違う。



「一撃じゃ無理そうかな?」


「うん。防御力も高そうだし、攻撃力もありそう。1回ライトニング・スピアを使ってみるけど…たぶん貫通しないと思う。」


状態異常魔法継続ダメージを当てて、遅延戦闘がまんくらべに持ち込んじゃうのは?」


「キリト、それで行こう。みんな!遅延戦闘ちえんせんとうの準備を!防御魔法厚めでいこう。」



学生さんたちの作戦会議、静かに見守る俺。作戦はとっても正しい。攻撃が通りにくいであろう相手に対しては、状態異常魔法で対抗する。教科書通りであり、正攻法である。



―――ただ…。



俺は静かに魔法を構成する。時に挫折ざせつという経験も必要かもしれないが、それはまた別の機会に。











「やばっ!簡単に割られちゃう!」


「鎌のモンスターの攻撃力が高いんだ!くっ…どうすれば…。」


「こっちも…もうもたないよっ…。」



多重展開した防御魔法は次々と破壊され、戦線せんせん崩壊寸前ほうかいすんぜん。たしかに状態異常魔法を使った戦術は有効だ。継続的にダメージが入るため、時間を味方にできさえすれば、最強の戦術と言える。ただ、それはがあっての話なのだ。


例えば今割られてしまった防御魔法。位置も強度も悪くない。それでも割られてしまう。なぜか。その理由は極めてシンプルなところにある。



―――反撃がこなければ…全力攻撃されてしまう…。



両手鎌を大きく振りかぶり、渾身こんしんの一撃で粉砕される防御魔法。その威力はすさまじく、通常時の攻撃とは比較にならない。比較にならないが、。威力の大きい攻撃ほど、隙がうまれる。今防御魔法を割ったモンスターは、自分の鎌に振り回される形で、前につんのめっている。動きも鈍く、防御する余裕もない、格好かっこうまと


そんな捨て身攻撃を許すか否かは、反撃の有無によるところが大きい。どんなに強力な攻撃を放っても、対象はあくまでも防御魔法なのだ。別にこっちがダメージを受けているわけでもない。とすると、隙をうみだしたという意味において、学生さんたちの作戦は素晴らしい成果をあげている。ただ、その隙をついていないため、力に押されてしまっているのだ。



―――まだまだ教えなきゃいけないこと…たくさん。



でも…それが俺の仕事。

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