190 堀を掘るという意味
「ギルドマスター…?」
姿が見えない。まさか、もうモンスターが…。
「あ、すみません!ここです、ここ。」
「…?」
「
顔とスコップが地面からひょっこり。なかなかにホラーな再会である。
スコップ片手に
「…って、これ、掘ったんですか!?」
「…?えぇ。」
競泳用のプール2レーン分はあろうかという長さと
それはともかく、ひとつ気になることがある。
「あの…大変失礼かと
そう、ここは浜辺。町の周りに掘るならともかく、後ろにはキラキラ輝く海しかない。
「…あっ!そそそその…もしかしたら海からも攻められるかと思いまして…。ふっははははは…。」
「なるほど…?」
思いもつかなかった。たしかに
「コホン。それで…どうしましょうか?」
堀からひょいと飛び上がり、スコップを砂浜にサクッと突き立てたギルドマスター。いつもの冷静な表情に戻っている。よかった。
「
あれだけの大軍勢、通り道に位置する町は
しかし、位置が悪すぎる。
「現在の位置関係、空から見るとこんな感じですよね。」
浜辺に木の枝でお絵描き。左から順に…王城、ギルド、山、モンスターの大軍勢、町、浜辺、海。
「そしてモンスターは町の方へと向かっています。」
「うーん…これでは…。」
そう、モンスターの背後はとれるのだが、
「ひとまず町より前に出ましょう。逃げ遅れている人がいるかもしれませんし、町の
友好国とはいえ、ここは他国。軍事に関わる設備を使わせてもらえるのか問題はあるが、今はそんなこと言っている場合ではない。
「了解です。戻ってくるはずの職員
そう言って、砂浜にスコップでお手紙を書きはじめたギルドマスター。なんだか甘い
「コウタ先生、ギルドマスター。お待たせしました。」
「とりあえず町に向かいます。ミイナさ…ん?」
振り返ってびっくりした。鍋をかぶとがわりにかぶり、護身用の片手剣と盾を構えるミイナ姫の姿。ちょっとへっぴり腰な点を除けば、その姿はまさに冒険者。
「私も町を守ります!自分の身は…自分で守れます!」
「いや…しかし…。」
口を挟もうとするギルドマスター。気持ちはわかる。ミイナ姫の身に万一なんてことが起きれば、国際問題どころの騒ぎではない。人道的見地からはともかくとして、政治的見地からは最速で
「友好国を守ります。王国の名にかけて。」
それを言われるともう止められない。いつになく真剣な目のミイナ姫。その表情、俺は見たことがなかった。
■
「こ…これは…。」
町の様子が視界に入り、言葉を失うギルドマスターと俺。勢いあまって駆け出すミイナ姫。そこには。
「おばあちゃん、その荷物俺が持つよ。」
「
「そこに
「北側の入口が弱くなってるみたい!誰か、一緒に修理を!」
避難を呼びかけ、町を防衛しようとしている学生さんたちの姿だった。内心はとってもうれしいが、複雑な心情も入り乱れる。「はやく避難を、町よりも自分たちの命を」と
―――いや…。
学生さんたちは、今、自分の「正義」に従っている。冒険者は自由だ。そして彼らのあこがれる冒険者像は、きっと町を見捨てない。その判断は
―――俺は…正しいのか…?
自分の判断に自信が持てない。もし、自分の子どもが同じ選択をしたとき、俺は…。迷いは時として、自分にとって都合の良いこたえを導いてしまう。目の前で町を守ろうと必死な姿、そこに町を見捨てるという選択肢はなかったはずだ。先導していたはずの職員さんも、一緒になって荷物を運び出している。きっと…この町を…この現状を見た時、当然のようにその判断を受け入れたのだと思う。
―――俺は…弱いな…。
「彼らを信じましょう。…大人は…こっそり裏から支えるのが格好良いんです。」
「…えぇ、もちろんです。」
視線の先には片手剣をしまい、重そうな荷物を抱えて運ぶミイナ姫の姿。
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