189 そっちではなくて
「来たっ!…え…?」
たしかにモンスターはいた。
「先生、違いますっ!うしろ、うしろっ!」
うしろ、つまり背後か。
「コウタ先生っ!モンスターの…。」
ギルドマスターの声からも焦りの色が。余計に振り返りたくなくなったが、ここまで来たら腹をくくろう。フラグを建築してしまったのは俺だし、学生さんを守るのも俺の仕事だ。さて、がんばってフラグをへし折ろう。
「来ましたか、モンス…ター?」
視線の先には、
「ギルドの皆さん、落ち着いて、学生さんたちと関所方向へ避難を。付近にいる民間人の皆さんにも避難を呼びかけてください。ユノさんとカリンさんで、緊急用の
この研修旅行の責任者は教授である俺だ。通常であれば有しないギルド関係者への指揮権も、今は俺にある。皆さんの安全と安心は、俺の判断にかかっている。
職員さんへの指示を終え、不安な様子の学生さんにも状況を伝える。まだ入学して1か月程度。
「学生の皆さん。緊急事態なので、落ち着いて、ギルドの職員さんの指示に従ってください。万が一のときは魔法を使って構いません。皆さん、ちょっと
あいかわらず個性豊かな杖が並ぶ。見た目が自由に変えられるとはいえ、学生さんの想像力には毎度驚かされている。今期の最大級ビックリは、弓矢の矢にした学生さん。なぜそうなったのかオブザイヤーが思考を駆け巡ったが、ひとさまのセンスにとやかく言うつもりはない。
それはさておき、俺がこれから使う魔法は、知られると結構まずいものである。
「うん…大丈夫そうですね。さすがです。では、慌てず避難を始めてください。」
「はい!」
元気の良い返事に一安心。パニックになってもおかしくないと思っていたが、冒険者のタマゴは強かった。うれしい。なんだか泣きそう。
ちなみに俺がコソコソと使った魔法は、訓練用の杖にかけられている魔法制限を一部解除する魔法だ。非常時に「流用の危険が」とか、そんなこと言っていられない。防御魔法はフルスペックで使ってこそ輝くのだ。さらにちなむと
「ギルドマスター…少しここをお願いします。すぐに戻ります。」
「了解しました。敵の動向を分析しつつ、トラップの準備を始めます。」
俺には守らなければならない人がいる。エリさんの大切なお友だちであり、王国のお姫さま。そう、ミイナさん。
■
「ミイナさん、コウタです。お邪魔しても大丈夫ですか?」
緊急時なので「失礼します、ガチャ」と突入したいところだが、さすがにダメだと常識が止めた。部屋のドアから少し離れて声をかける。
「ふぇぁ!?コ、コウタ先生…。ちょっと待ってください。今、その…お着替えをしておりまして…。」
よかった。俺の常識、ありがとう。突入していたらヤバかった。全力謝罪案件が発生するところだった。ミイナさんにはもちろん、エリさんにも…。
「そ、そうですか。あのですね、実はモンスターの侵攻が発生しておりまして、避難の必要性がありそうなんです。まだ慌てる段階ではないと思いますが、場合によっては関所をこえて王国へ戻ることも検討しているところです。」
全てが可能性であるため、
「そんなことが…。わかりました、すぐに向かいます。」
「よろしくお願いします。建物の外におりますので。」
それだけ伝え、階段をドタバタとおりる。ここから関所までは数分程度。俺はともかく、お姫さまならば走ってすぐの距離だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます