187 それはそれは申し訳ない朝で

「ふぁわぁぁぁぁっ…ふーん…。」



まだ暗い夜、いつもより広いベッドでひとり。眠れない。そして、まだ2日目なのにもう寂しい。どうしよう、こんなんで1週間の研修旅行けんしゅうりょこう、乗り越えられるのだろうか。唯一ゆいいつの救いは、横でかわいらしい寝息をたてているわたあめの存在。わたあめがいなかったら、寂しすぎて泣きかねない。



―――俺って…こんなにあまえんぼうだっけ…?



自分の性格に疑問符ぎもんふをつけるという、なんとも情けない現実。しかし、よく考えてみると当たり前な気もする。「高校生の冬、突然異世界に飛ばされ、セット販売だと思っていたチートはなし」…。リアルどうなっちまうんだ俺状態をて、エリさんに出会った。少し離れるだけでドキドキしてしまう。いろんな意味で。



「チートか…。」



もらえなかったけど、せめて攻撃力とか防御力も平凡へいぼんにしてほしかった。そもそもの話として、俺をこの世界に飛ばした御仁ごじんに問いただしたい気持ちはある。何を思って、チートなしの「異世界人」を送り込んだのか。



―――ダメだ…変なことばっかり考えてしまう…。



なんだろう、虫の知らせというやつだろうか。こっちに来てからどうも調子が出ない。エリさんの安全は確保されているし、コロンさんも元気。ミイナさんの件も解決しそうだし、研修旅行もすべり出し上々。不安になる要素などないはずなのだが。



―――いや…フラグをたてるのはよそう。



そう、悪いことなんてそうそう起きるわけがない。…これもフラグか。











まだまだ眠たい目をこすりつつ、食堂に顔を出す。右手は目もとだが、左手はおでこ付近に。実は昨夜、寝ぼけて廊下ろうかの柱にしてしまったのだ。信じられないくらいに痛い。防御力1、何かと不便。



「おはようござい…ふわぁぁぁうーん…すみません。」



奥の席でオムライスを頬張ほおばるミイナ姫。ご挨拶あいさつをと思ったが、眠気がオーバーラップしてしまう。大変に失礼しました。



「おはようございます。あまり眠れませんでしたか?」


「いろいろ考えてたら眠れなくなってしまって…。」



ところで食堂にはミイナ姫と俺ふたりきり。ギルドマスターをはじめとするギルドの職員さんは、既に演習の準備でてんやわんや。窓の外に目を向けると、学生さんたちが入念な準備運動をしている。そう、つまり、なんというか…その。



―――寝坊ねぼうしました。ごめんなさい。



一応「ギルドの仕事なのでお任せください」とは言われていたが、さすがに申し訳ない。急ぎます。



「あの…午後から、きた浜辺はまべに行ってみようと思うのですが、よろしいでしょうか?」


「北の浜辺…ですか?」



リンゴ王国の浜辺はあまりに広大こうだいなため、区分したうえで、それぞれに名前がつけられている。演習にお借りしたこの場所は、南の浜辺と呼ばれている。出現するモンスターも比較的低レベルであるため、新人冒険者向けの場所とされている。すなわち、ある程度のレベルに達した冒険者はあまり訪れない。



「えぇ。ここの受付の方にお伺いしたところ、北の浜辺には冒険者の皆さま。経験値…というのでしょうか。その効率が良いそうでして。」


「なるほどですね。わかりました。14時頃には演習が一段落しますので、それから行ってみましょう。」


「よろしくお願いします。」



再びオムライスを頬張るミイナ姫。ところでそのオムライス、ここのメニューにはなかったような。



―――ぐぅぅぅぅ…



あの…もしあまりなどあれば…いえ、なんでもないです。急ぎます。あと、わたあめのこと、よろしくお願いします。

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