186 遠回りな人探し

「ミイナさん、町の方へ行ってみますか?」



そう、ミイナひめの結婚相手、コウキ王子を探しに。



「は、はい…。なんだか緊張します…。」



なんだかかしこまった雰囲気ふんいきになるミイナさん。らしくないが、これがなのかもしれない。エリさんと初めて会った時の俺、こんな感じだった記憶がある。今では懐かしい思い出ばなし。


ちなみにミイナ姫と俺が2人きりというのは、実際のところきわめてまずい。事情を知らない人からしたら、旅行先での浮気発覚うわきはっかくである。しかもミイナさんは正体を隠すべく、ギルドの制服に身を包んでいるのだ。「コウタ教授、ギルド勤めの美女と密会みっかいの旅行先」なんて記事が出ようものなら、目もあてられない。



―――いや…その美女というのは、その言葉ので…。



自分の想像で自分の首をしめた。どう着地してもどちらかの失礼にあたるという、最悪の状況に追い込まれる。口に出してなくて本当によかった。



「コウタ先生、どうかされましたか?」



変なあせりをさとられてしまったのだろうか、怪訝けげんな表情のミイナさん。



「ちょっと歩き疲れまして…あはは…。」



適当に誤魔化ごまかして、話題を戻す。



「コホン。それでですね、王国のギルドに確認したところ、王子さまは冒険者としての一面もお持ち、とのことでした。」



友好関係にある国の関係者とはいえ、詳細な予定までは教えてもらえなかった。もちろんそれは警備セキュリティの観点から当然の話であって、特に違和感のあるものではない。それにかなり遠まわしにとはいえ、ヒントはもらえた。


冒険者の一面もお持ちということ、それはすなわち「ギルドで待っていれば会えるかも」ということ。



「冒険者さんが丁度ちょうどギルドに報告される頃合いですが…?」



どうされますか、という視線を送る。隠居いんきょ事件ではぷんぷん怒り、オムライスのおいしさにはじけんばかりの笑顔。とっても無邪気で素直なお姫さまだけど、この表情は初めて見た。なんだかこっちまで緊張してしまいそう。



「そ、そうですか。では、ギルドへ…。」



消えそうな声でミイナさんが呟く。そしてこの表情は記憶にある。無理をしているときのエリさんそっくりだ。



「あの、あまり無理をなさらないでくださいね。冒険者としてお仕事をされているところ、そこを遠くから見る…という手もありますし。」



「…コウタ先生、お優しいのですね。…エリちゃんがれるのも納得です…。」



「あ、いや、その…。」



困った。ちょっと目線を下にらしてほおを染めるその表情、俺、どストライクなんです。エリさんに言えない感情を理性で吹き飛ばし、堂々どうどうとした表情を返す。…もとい、精いっぱい目線を逸らした。



「ふふっ、照れやさんですね。コウタ先生は。」



どうやらからかわれていたらしい。なんだか複雑な気持ちだが、ミイナさんが元気なようでなにより。ええ、なにより。…帰ったらエリさんに愚痴ろうかな。



「では…明日、浜辺はまべのあたりをお探ししてみます。」



しかし、カメラがない世界ってこういうときに大変だ。お見合い写真のひとつでもあれば良いのだが、当然にない。ミイナさんも俺も、コウキ王子のお顔を知らない。探すにしたって骨が折れる。手がかりがあれば良いのだが。



「…?もしかして、どうやって探すんだろうとか思ってます?」



「…はい。」



心を読まれた。これが社交界しゃこうかいをまたにかけるお姫さまのチートか。



「大丈夫ですよ。王子さまが目立たないなんてこと、ありませんから。」



言われてみればそうだった。このお姫さまがなだけで、王族が街中を歩けば騒ぎになるのが自然だ。ちょっと仕返しにそんなことを言ってみようかとも思ったが、その勇気は持ち合わせていなかった。

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