185 ピラニアとシャコと王子さま

「すみません、急なことで…。」



関所せきしょで入国の手続きを行う俺とギルドマスター。友好国ゆうこうこくであることと学生という身分をもって、検査などは大幅な免除めんじょを受けている。それでも200名の大所帯おおじょたい。さすがに申し訳ないので、予め謝っておく。



「いえいえ、魔法使まほうつかいの名声めいせいはこの国にも届いております。そんな魔法使いのタマゴ、そして何よりコウタ先生にお越しいただけるとは…ありがたいことです。」



恐縮きょうしゅくしっぱなしの俺。おっしゃる通り、魔法の力は世界注目の的となっている昨今。その中心である魔法学部は世界の注目を一身に集めている。もちろん世界にとって有用なことであるため、魔法の詳細は全世界に向けて公表されている。そうでなくても、まぁ、スパイ的な存在から筒抜つつぬけになっていたりはすると思う。ここは俺の勝手な推測だが。


ただ、すべての情報が公開されているわけではない。そしてこれは政治判断せいじはんだん。コロンさんはともかく、俺はタッチできない領域の判断によって、情報は管理されているのだ。結果、魔法学部はこの世界で最高峰さいこうほうの魔法使い養成機関としての栄誉を得るに至った。ありがたいことに。



「それにしても魔法というものは素晴らしいですね。うちのせがれが魔法使いを目指してまして、父親なりにいろいろと勉強はしてみたのですが…驚きの連続でした。魔法が世界に広がり、モンスターの脅威きょういがなくなる時代が来ると良いですね。…はい、入国の手続き完了です。どうぞ、順番にお通りください。」



冒険者証を受け取る俺。この世界では、ありとあらゆる場面で冒険者証を使う。あの時登録できて、本当によかったと、心の底から思っている。何より、エリさんに出会えたし。



「ありがとうございます。皆さん、順番を守って通ってくださいねー!」



「はーい!」



元気の良い声が返ってくる。俺が死にそうになりながら歩いた道なのに。これが現実か。ちなみに学生さんの防御力の平均、800くらい。要するに俺の800倍の体力。もう、泣きたい。











リンゴ王国は海に面した国であり、海産物かいさんぶつ輸出ゆしゅつを中心産業としている。夏の時期には海水浴を目当てに訪れる人も多く、マリンスポーツの聖地的存在らしい。の俺には縁遠い話ではあるが。


それはさておき、海に面しているということは、海からの襲撃を常に警戒しなければならないことを意味する。現実世界ならばともかく、この世界にはモンスターがいる。何ならうじゃうじゃいる。ピラニアが巨大になって狂暴化きょうぼうかしたみたいなモンスターや、メガトンパンチを繰り出してくるシャコみたいなモンスターなどなど。



―――大変には大変なんだけど…。



魚介類には魚介類なので、おいしいのだ。しかもレベルはそんなに高くない。となれば冒険者にとって、絶好の狩り場になるわけである。ゲーム風に言うならば、経験値稼ぎの穴場スポットみたいな感じ。おいしいものを食べられるという一石二鳥な場所なのだ。



「では皆さん、自分の部屋を確認して、明日に備えてください。この後は自由時間ですが、怪我などしないように気をつけてくださいね。」



「はーい!」



元気の良すぎる反応が返ってきた。逆に心配になるのは過保護というものなのだろうか。ちなみにお世話になる宿屋さんは、海のそば。つまり、経験値稼ぎにはもってこいというわけだ。



―――魔法はなんだかんだで実戦が一番だもんね。



俺みたく防御力1では危険すぎるが、ここにいる学生さんたちはある程度の防御力がある。低レベルモンスターから攻撃を受けても、そんなにダメージはない。安全を確保しつつ、実戦経験を積める素晴らしい環境なのだ。


…という言い訳を済ませたところで、俺はもう一つの課題解決へと向かう。

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