183 隠し隠された技術【ネタバレ注意】
――――――古びた本に囲まれた一室
「大将、今日はご
「ボクはいつだってご機嫌さ。ただね、ちょっと困ってるだけさ。」
「良いんだけどね。
「…。」
「おや…コウタくんに情でも移っちゃったかい?まぁ、
興味を失ったように、男は扉に手をかける。
「今日はやけにしゃべるのね。前とはずいぶん印象が違うけど、口数少ない方がミステリアスで良い感じよ。」
「ボクはどんな姿にでもなれる。コールと話すときは
時が止まったかのように時が流れている。ころころと変わる声色。反応を楽しんでいるかのような時間が続く。
「ふふっ、黒幕を誤魔化すことだって造作もない。君の大切なものを奪うのだって、一瞬さ。それがボクの
「…ふん。」
仮面の女は部屋を出る。荒々しく閉められるドア。
「そう…
あったはずのものは消え、真実への道は暗闇の奥深くに埋まってしまった。
■
――――――リンゴ王国までの道中
―――つ、疲れた…。
攻撃力1、防御力1の悲しい現実と向き合う俺。リンゴ王国まではもう少しあるのだが、こんな調子で大丈夫なのだろうか。素直に馬車をお願いするか、あるいは後から転移魔法で飛ぶべきだったかもしれない。
後悔が折り重なる心を抱えつつ、なんとか歩を進める。
「コウタ先生…大丈夫ですか?」
「な…なんとか。」
ギルドマスターに心配されてしまった。エリさんがいれば、「もうダメです…おんぶ…。」と甘えかねない状況。さすがにギルドマスターにおんぶしてもらおうとは思わないが。
この世界、防御力と体力に密接な関係がある。日々の運動をはじめとする体力トレーニングにも、もちろん大きな意味がある。それをしてなお、防御力への依存度はすさまじい。わかりやすいのがエリさんの俺の関係。俺が普通に歩いてへばっている道を、エリさんは俺をおんぶした状態で軽々と進んでいく。
―――俺…まだ若いはずなんだけど…。
そして、とどめをさされるような事実がもうひとつ。防御力、そう簡単に上がらない問題。ゲームの世界ならば、レベルアップや専用アイテムでなんとでもなる数値なのだが、この世界は違った。うまれもった防御力への依存度が高すぎる。上がっていく値もたし算ではなく、かけ算なのだ。もとが1の俺、どう頑張っても亀の歩み。もとが1000の冒険者さん、ちょっとモンスターと戦えば1100。もう悲しい。
「うわぁー!きれいだなぁー。」
前を歩く学生さんの言葉に、足を止める。眼下に広がる
―――エリさんと来たかったな…。
本音が湯水のごとくあふれ出す今日このごろ。
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