089 不穏

しばらく待っていると、コロンさんがやってきた。どうやら魔法学科まほうがっかの説明会も無事終了したらしい。



「コロンさん、どうでした?魔法学科の方は。」



「うむ。まあ、以前と変わらん感じじゃな。扱う内容は大きく違うが、仕組みは変わっとらん。今からでも始められそうじゃわい。」



コロンさん、昔の血がさわいでいるようだ。



「コロンさん、こちらカイさんです。ギルド本部の方で、俺の担当たんとうについてくださるそうです。」



カイさんが挨拶あいさつのタイミングを失っていたようなので、俺から紹介しておく。



「コロンじゃ。コウタは新人じゃからの、よろしく頼む。」



コロンさんにも同じように担当の人がついたそうだ。後ろでギルドマスターと話し込んでいる人がそうなのだろう。後で挨拶をしておこう。



「ギルドマスター、もうわしら帰っても良いかの?かわいい孫が首を長ーくしてコウタの待っておるじゃろうからな。ナハハハ!」



「ええ。大丈夫です。


あ、明日の予定だけお伝えしますね。入学式が午前中にありまして、午後からは入学生のステータス測定そくていなどが行われます。基本的にはギルドの方で進めますが、入学式のなかで挨拶をお願いしますので、そこだけよろしくお願いします。」



どうやら明日も壇上だんじょうで挨拶をしなければならないらしい。今日よりは良いものにできるよう、しっかり文面を考えておこう。





「あれ…ドアが…あ、閉まった。」



「おや、また開いたぞ。」



ドアが開いたりしまったり。エリさん、今かいまかと待ってくれているようだ。


その期待にいち早く応えねばなるまい。急に走ると例の悲劇ひげきが起きかねないので、少しずつスピードを上げる。



「…あ、コウタさん!おかえりなさい!」



「はあ、はあ。ただい…わふっ!」



――――――キャン、キャン!



「わたあめ」がカットイン。勢いよく飛びついてきた。最近はこんな感じ。どうやらダンジョンの一件で、甘えん坊に拍車はくしゃがかかったらしい。



「もう、甘えん坊さんなんだから。よしよし。」



その夜、おばちゃんのお店で結婚パーティを開いてもらえた。明日の準備でいそがしいときだと思うのだが、ギルドからも多くの人がかけつけてくれた。ユウ先生にはさんざんからかわれたものの、とても幸せな時間だった。





お家に戻り、お風呂に入る。相変わらずなのだがこのお家、お風呂が3つある。どう使えというのだろうか。しかも1つは源泉げんせんかけ流し、まさかの温泉だった。



「エーリさん!」



「コーウータさん!」



名前を呼びあっているだけなのに、とても幸せに感じるのはなぜだろうか。この調子ちょうしだと確実にのぼせてしまうのだが、こんな幸せな時間終わらせられるわけがない。


もう少しだけ、がり返され、翌朝は見事に寝不足だった。





――――――とある建物の地下



「どうだ…順調に進んでおるか…?」



またしても声の主の姿は見えない。薄暗い部屋のなか、例のローブ姿の男がひざくっしている。



「すべて順調です。早ければ1か月で魔法学部はなくなるでしょう。」



魔法学部に脅威きょういが迫っていた。

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