087 説明会

「わー、たくさんいらっしゃいますね…。」



校舎こうしゃの会議室、もとはリビングだった場所なのだが、王立学校で働く予定の人たちでいっぱいだった。


この世界の職業割合、半数以上を冒険者が占めている。ただし冒険者と一言であらわしてもさまざまで、気が向いたときに依頼をこなす人もいれば、セイヤさんのように毎日難関なんかんダンジョンの攻略こうりゃくに挑むような人もいる。



「王国関係の仕事は、就職しゅうしょく先として人気じゃからの。」



そう、冒険者という過酷かこくな職業、いつまでも続けられる例は少ない。ある程度のタイミングで引退を選択する人がほとんどで、その人たちはさまざまな職にいていく。


そんななかでも王国関係のお仕事は、大変に人気だ。しかし人気な分、就職は狭き門となっている。そんななか発表された王立学校魔法学部まほうがくぶの新設。応募は殺到さっとうし、その倍率は1200倍をこえたそうだ。



「でも…魔法学のことを教えられるのって…。」



「そうなんじゃ。コウタとわし、2人しかおらん。」



このままだと超絶ブラックな労働環境ろうどうかんきょうになってしまう。先が思いやられてきた。


とりあえず用意された席へと向かう。途中、たくさん声をかけていただいた。なかには結婚のことを知っていて、祝ってくれた人までいた。この世界の情報網じょうほうもう、あなどれない。



「それでは説明会を始めたいと思います。机の上に資料がありますので、足りないものがないか、一度確認をお願いします。」



司会はギルドマスター。婚姻の届けを出しに行ったときに知ったのだが、ギルドマスター、この学部の事務局長を兼務けんむすることになったらしい。今までもずいぶんお世話になったが、これからもたくさんお世話になりそうだ。おばちゃんともども、あの親子には頭が上がらない。



「えー、大丈夫そうですね。では、まず本学部の学部長を紹介したいと思います。もうご存知ぞんじの方も多いと思いますが。ではコロン教授、よろしくお願いします。」



コロンさんが壇上だんじょうへと向かう。魔法学の現状、ときにユーモアをり交ぜた挨拶あいさつは、拍手かっさいのなかに終わった。さすがはコロンさん。



「ありがとうございました。続いて、コウタ教授です。コウタ教授には、冒険者学科を担当していただきます。では、コウタ教授。挨拶をお願いします。」



薄々気づいてはいたが、やはり壇上に上がることとなった。心の準備はできているが、やはり緊張する。こんな大勢の前で話すのは、小学校の全校集会で登壇して以来だ。確か合唱委員長のときだったと思う。そう、市の何かで表彰されたときだった。



「ご紹介にあずかりました、コウタです。」



結局、無難ぶなんな言葉でまとめて、その場をのりきった。今後、こういった機会は多いと思うので、それなりに話のネタをストックしておかなければなるまい。



「では、冒険者学科を担当される皆さんは、別室で説明があります。すみませんが、移動をお願いします。」



冒険者学科、要するに新人冒険者育成コースなのだが、そこを俺が受け持つこととなっている。魔法使いを目指している人たちが中心なので、より実用的な魔法を教えることとなる。


一方、コロンさんが受け持つ魔法学科は、学問として魔法を考えるコースだ。普段コロンさんや俺が研究しているような、魔法の理論を学ぶことになる。意外と言ってはなんだが、こちらの学科にも大量の応募があった。コロンさん曰く、将来的にここの教授になる道を狙ってのことだそう。



―――まあ、さすがに2人では難しいし。教える人が増えるのは、ありがたいよね。



今期の入学は100名。応募はその何十倍もあったので、様子を見ながら定員も増やしていくそうだ。



「コウタ先生、コウタ先生もこちらへ。説明は私がしますので、ご安心を。」



「すみません、よろしくお願いします。」



こうして説明会は数時間ほどで終了した。事務的な連絡がほとんどだったが、いわゆる単位たんい、卒業要件の話もあった。まさか大学生活を経験する前に、単位を認定する側にまわるとは。

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