085 これから

話が一段落ひとだんらくしたところで、エリさんがお茶をれてくれる。いろいろあったばかりなので、今日はこんな感じでのんびりの一日になりそうだ。



「ところでコウタ、そのでんわというものなんじゃが、この世界にある通信機と似たものなのか?」



通信機、あるのか。



「それって、どういう仕組みなんですか?」



「ギルドにしかないんじゃ。よくわからんが、ギルド本部から線が伸びているらしい。」



―――有線か。



電気はあるので電線だとは思うが、糸電話に近い構造なのだろう。通信機と言えるかどうか、微妙びみょうなラインではある。



「うーむ。なんだか気になってきたの…。少しギルドに行ってくるわい。」



コロンさん、好奇心こうきしんに押し切られたようだ。上着を羽織はおって、ギルドへと向かっていった。



―――コロンさん、やっぱり科学大好きなんだな。



そういう俺はと言うと、テスト対策で勉強する程度。嫌いではないが、情熱をもって勉強できるかと言われると、厳しい。そういう意味でも、魔法学まほうがくは俺にとって特別な存在と言える。



「あれ、おじいちゃん?」



所用しょようでギルドに行かれましたよ。」



「そうですか…。あの、コウタさん。」



エリさんが俺の隣に座った。いつもと違う距離感に、鼓動こどう高鳴たかなる。



「な、何でしょうか?」



とぼけたふりをしてみたが、何を言われるのか、わかっている。昨日はあえて避けてきたあの話だ。



「…。」



エリさんは視線をらさない。言ったのは俺なので、やはり俺から切り出さなければ。



「エリさん…俺がダンジョンに吸い込まれるときに、言ったこと…聞こえてました…?」



「き、聞こえてません!」



絶対嘘だ。エリさんも嘘が下手。目が泳ぎまくっている。声、裏返ってるし。顔も真っ赤だし。そういう俺も真っ赤だと思う。



「じゃあ…もう一回、言いますね。」



「ま、待ってください。心の準備が…。はい。大丈夫です。お願いします。」



ダメだ。信じられないくらいに緊張してきた。なんでい込まれているときは、あんなにさけべたんだろう。



「エリさん!僕と…結婚してください!」



たった数秒の間が、これほど怖いのは初めてだ。



「…。」



エリさんが静かにうなづいてくれた。



「おめでとうじゃー!」



コロンさんがすごい勢いで入ってきた。一瞬ドッキリかと思った。



「お、おじいちゃん!?」



「いやー、やっとじゃ…。外、寒いんじゃぞ。」



「そっちですか!?」



冗談じょうだんじゃわい。エリ、良かったのー!」



エリさんが頷く。俺もつられて頷く。



「コホン。コウタ、エリを泣かせた場合、どうなるかわかっておるな?」



「はい。」



わかっています。わかっていますし、泣かせることなんて絶対にしません。しませんから、そのつえ、下ろしていただけると。

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