083 実験の結果

―――料理って、こんなに大変なのか…。



やっとハンバーガーらしきかたちになった。具材は焼いたベーコンにトマト、そして半熟はんじゅくの目玉焼きだ。


前言撤回てっかいげたベーコンにレンコンとしたトマト、そしてりたまごだ。



「これは…悲劇ひげきだ…。」



「そんなことないですよ!…あ、ほら、パンは上手に焼けてるじゃないですか!」



途中から優しく見守っていてくれたエリさんが、必死ひっしにフォローしてくれる。しかし、悲しきかなフォローにはなっていない。それ、市販しはんのパンなのだ。



「…もっと、がんばります。」



さすがにへこんだ。さすがに、もう少しできるものだと思っていた。



「おはよう。おや、そうか。今朝はコウタが料理かい?」



コロンさんがやってきた。キッチンの惨状さんじょう、できれば見せたくなかったが、仕方ない。



「…はい…。」



「うむ?どうしたんじゃ?…これは…悲劇じゃの…。」



率直そっちょく過ぎる感想、痛み入ります。



「お、おじいちゃん!」



「あ、すまん、すまん…。あ、ほれ、パンは上手に焼けておるではないか。」



―――…市販のパンです。





結局、エリさんがレタスのスープをつくってくれたので、なんとかまとまりを取り戻した。



「…すみません。」



「いいんですよ。気持ちだけでもうれしいです。」



ショックは大きかったが、このままへこんでいるわけにもいかない。早く食べて、気持ちを切り替えよう。



「じゃあ、いただくとするかの。」



「いただきまーす。」



見た目はともかく、不味まずくなる要素はないはずだ。覚悟かくごを決めて、口に運ぶ。



「あ、おいしい。おいしいですよ。」



エリさんが先にめてくれた。確かに味は良い。



―――やっぱり料理は味だよね、味。



「うむ。おいしいぞ。見た目はともかく。」



コロンさん、的確てきかくに心を攻撃しないでください。





「それで、ダンジョンはどんな感じじゃった?」



さっきの悲劇ですっかり忘れるところだった。その話をしなければならない。



「はい。俺の他にも3人い込まれたみたいで、その人たちとパーティを組んで攻略こうりゃくしました。


なんだかとっても不思議なダンジョンでしたよ。武器をくれたり、攻撃力や防御力を上げたりしてくれるんです。結局それがわなだったんですけど…。」



「へー。じゃあ、コウタさんも攻撃力とか上がったんですか?」



上がっていたらチート体験ができたのだが、そうは問屋とんやおろさなかった。



「残念ながら…。でも、おかげで攻略の糸口いとぐちがつかめたんです。2日かかっちゃいましたけど…。」



ゲームならば攻略サイトを見ていたかもしれない。そして攻略サイトがあれば、一瞬だっただろう。



「え?2日…ですか?」



エリさんが不思議そうな表情をしている。何かおかしなことを言っただろうか。確かに厳密げんみつに48時間かかった、というわけではないが。



「ダンジョンのなかでは、時間の進み方が違うことがあるんじゃよ。コウタがダンジョンにおった時間は、半日くらいじゃぞ。」



「そうなんですか…。3倍ってそういう意味だったんだ。」



やっとウッドさんの言葉の意味が理解できた。そういえば、体内時計がくるっている感覚がある。昨日、ダンジョンで眠れなかったことも、これが原因かもしれない。



「それで、どうやって攻略したんじゃ?」



コロンさん、興味津々きょうみしんしんだ。冒険者としてのさわぐのだろう。



「最初は強化魔法まほうかけまくって、攻撃力で押し切ろうと思ったんです。でも、どうしても無理で。


攻撃力99999に強化魔法をかけてるのに倒せないなんて、何か変じゃないですか?それで、いろいろ考えてみたんです。


そうしたら、俺だけ特別な力を与えられていないことが引っかかりまして。元のままでも攻略できるから、特に変化がなかったんじゃないか、と思ったんです。」



「なるほど。コウタの特徴とくちょうといえば、やはり攻撃力と防御力が1のことじゃろうな。」



さすがコロンさん。



「はい。でも、さすがにすごい攻撃で、俺にはかいくぐる自信がなくて。もう一人いた攻撃力1の人にお願いしたんです。


あんじょう、敵は一定以上…おそらくですけど、2以上のダメージをすべて無効化する能力を持っていました。なんとか攻撃が当たって、攻略できた…という感じです。」



結構省略しょうりゃくしてしまったが、要点はおさえていると思う。



「まさか、魔法をきたえたことがあだになるとはの。」



「そうなんですよ。継続ダメージの魔法とかも考えたんですけど、どう調整しても2以上のダメージになってしまって…。直接れば…とも考えたんですけど。」



最後のは冗談じょうだん。さすがに蹴ったぐらいではダメージにならない。



「一応、調査が始まるみたいですけど…エリさんも気をつけてくださいね。…エリさん?」



なんだかエリさんの様子がおかしい。何かまずいことを言ってしまっただろうか。



「…あの…2日ってことは…ダンジョンにまったんですよね。」



「はい。セーフゾーンで、テントを張って。」



「その…そこに女の人とかは…?いえ、別に疑っているわけじゃないですよ。その…ちょっと気になったくらいで…。」



そういうことか。2日なんて言わなければ良かった。もちろん何もない。何もやましいことはない。



「1人いらっしゃいましたけど…大丈夫、何もしてません。その…俺にはエリさんしかいませんから…。」



「…コウタさん…。」



助かった。いや、助かったはおかしい。誤解されなくてよかった。

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