018 オノマトペ
採取も一区切りついたので、エリさんと町へ帰ることにした。
帰り道はエリさんの
コロンさんの影響なのか…エリさんも研究者
しかし落とし穴とは。
さすがに驚いた。
「…今度掘ってみようかな…。」
「いつでもお教えしますから、任せてください!」
あまりの
採取依頼での使いどころ…全くない気もするが、ほら、共通の趣味を持つのは大事って…誰かも言っていた気がするし。
「採取依頼のときでも、背後をとられないように仕掛けておくと安全ですよ。」
「なるほど。たしかに…考え事してるときとか、危ないですもんね。」
防御力1の俺。
ちょっと小突かれただけでも、行動不能となるダメージにつながりかねない。
―――トラップは…身をまもるにも使えるんだな。
落とし穴はともかくとして、魔法のトラップとかも使ってみたい。
「コウタさん…フィールドにいるときは…考え事危ないですよ…。」
「あ…すみません…。」
ですよね。
「あ、そうだ。これどうぞ。また見つかったので。」
鉄は熱いうちに打て…ではないが、プレゼントは早めが吉…だと思っている。
というわけで、「
「いつもありがとうございます。良いんですよ?私、薬草むしゃむしゃしますし…。」
エリさんから「むしゃむしゃ」なんて言葉を聞くとは思わなかった。
笑いそうになるのを…必死に我慢する。
「…コウタさん?笑ってます?」
ばれてしまった。
「いや、ごめんなさい。なんか似てるなーと思って。俺も薬草は『むしゃむしゃ』のイメージです。」
「そうですよね!むしゃむしゃですよね!おじいちゃん、笑うんですよ?なんかおかしいって言って。」
たしかに「もぐもぐ」のほうが一般的な気もするが、薬草は草。
「むしゃむしゃ」が近いと思う。
オノマトペは難しい。
そんな話の途中、エリさんが小さくガッツポーズをした気がするのだが…その意味は今のところ謎のままである。
■
ギルドへたどり着いたエリさんと俺。
たくさん話していたくて…少し遠回りをしていることは、秘密だ。
間違いなくバレているとは思うのだが、それを流してくれるのがエリさんの優しさ。
甘えまくってすみません。
「エリさん。モンスターの素材は外で買い取りますので、一旦、外でお願いします。」
「わかりました。」
「コウタさんはいつも通り、こっちにお願いします。」
「あ、はい。」
毎日薬草を採取し続けている俺。
ギルドの職員さんにも、薬草の人という認識が広がっており…手続きもへったくれもなく、倉庫へと案内されている。
―――うれしいような…悲しいような…。
報酬も既に用意されているため、たまに本数が足りなかったときは…ちょっと受付がドタバタする。
俺は何も悪くないと思うのだが、申し訳ない気持ちにはなる。
「うん。今日もぴったりですね。さすが採取の鬼、コウタさん。」
「ど…どうも…。」
いつの間にか「鬼」扱いされていた。
悲しい。
そんな気持ちを引き出しに押し込んで、報酬を受け取る。
お金、大事。
「コウタさん、ちょっと待っててくださいね。」
「はい。」
エリさんは討伐依頼に関する手続きなので、いろいろと大変。
討伐確認は魔法で行われるものの、素材の鑑定はプロの目利きによる。
珍しい素材だったりすると、鑑定にも当然ながらある程度の時間が必要。
―――チートで天災級のモンスターとか倒して、国宝級の素材とか…とってくる予定だったんだけど…。
「こんな素材は見たことがない!」、「100万…いや、1000万の価値がある!」…的な展開を夢みていたのだが、現実は…まぁ。
若干の悲しみを抱えつつ、報酬の入った封筒を見つめた俺。
「お待たせしました。」
「いえ。」
エリさんに優しい笑顔を向けられ、表情筋が緩みまくりそうになるが…必死に抑える。
周囲から嫉妬的な視線の集中砲火を受ける俺だが、もう慣れた。
「ぐへへ…羨ましいだろう?」的な胆力を持たなければ、この世界を生き抜くことはできないのだ。
はぁ…。
「じゃあ、また明日ですね。」
「はい。あ…明日は何が良いですか?今日はケーキでしたけど。」
いつも気をつかっていただきまして、申し訳ない。
ここで「何でも」と答えることが悪手であることを、俺は知っている。
数秒の思考…。
「クッキーが食べたいです!」
「ふふふっ、はい。任せてください。」
エリさんが胸をポンとたたき、
何だか楽しい、嬉しい。
最近特に。
冒険者生活より研究生活の方が…性に合っているのだろう。
■
慣れた道を足早に進む俺。
エリさんと一緒でなければ、特にゆっくりする理由もないのだ。
「おかえりなさい。」
「ただいまです。」
フロントのお兄さんと世間話。
そのまま部屋へと戻る。
―――さてと…合成魔法…合成魔法は…。
忘れないうちに、気になったことを調べてみよう。
…とは言っても、コロンさんにもらった魔法のリストから合成という単語を探しているに過ぎないのだが。
―――あれ…ないな…。見落としたのかな…?
もう一度探してみるものの、やはり見つからなかった。
―――合成…ないのか…。でも…。
無いなら作ればよい。
俺には珍しく、プランがあるのだ。
合成と言うから難しく感じるだけで、回復薬は…要するに「ミックスジュース」だと思っている。
エリさんというプロ級の料理人も味方にいることだし、明日にでもお願いしてみよう。
―――なんだか…商売のにおいがする…。
そうならないことを願いつつ、明日の準備を進めるのだった。
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