017 それは古風なお話で
「私はそろそろ行きますね。今日は
「気をつけての…無理はせんようにな。」
「うん。」
優しい微笑み。
かわいい。
おっと…表情筋、表情筋。
「俺ももう少ししたら、また
エリさんはいつもの
淡い緑を基調とした服に、銀色をした金属製の装備。
詳細を知っているわけではないが、結構お高いものだと思う。
―――さっきのワンピース…結構良かったけど…あ、いや…。
コホン…覗いたりはしていない。
断じて。
ちなみにエリさん、この町でも指折りの冒険者。
要するにちょっとした有名人だ。
その…とても優しくてかわいらしい女性なので、それこそ言い寄ってくる
―――わからないことも…ない。
俺にほんの少しの勇気があれば、普通にデートなりに誘っていると思う。
その一歩が踏み出せないもどかしさを抱え、俺は今日も採取依頼をこなしていく。
もう少しちなむと、最近は俺がそういう輩に対して、ある種の「
たしかに毎日お家に
―――勘違いされて…迷惑にならなきゃ良いけど…。
本心と共存しえない心情が心に住み着いている。
その勘違いが…事実であれば良いのに。
あまり言いたくはないが、言い寄ってくる輩のなかにも…本当に良い人もいるかもしれない。
少なくとも採取依頼しかできない、
「チートがあればな…。」
こんなに悩む必要もなかった。
色よい返事をもらえるのかどうかはさておいて、少なくともアタックする覚悟は持てていた気がする。
チートのせいにし過ぎな気もするが、異世界へと勝手に飛ばされたのだ。
これくらいは、大目に見てもらえると幸い。
■
「ところでさっきの話なんですけど…。」
「うむ。」
魔法談議に花が咲く。
いつもだいたいこんな感じ。
魔法の話…つい盛り上がってしまうのだ。
現実世界での成績は…あまり
まあ…叱られもしないし、褒められもしない。
そんな感じ。
その点、魔法学は違う。
なんといっても正解がないのだ。
イコール、採点されることもない。
何か発見できればそれは世界初になる。
こんなに達成感がある経験は生まれて初めてだ。
「このあたりにヒントがある気がするんですよね…。同じ数だと発動できるのに、数が合わないと発動できなくなる…。」
急に専門的な話で申し訳ないのだが、気になって夜しか眠れないのだ。
魔法の組み合わせ…なぜうまくいくときと、うまくいかないときがあるのか。
その理由を探っている俺。
―――なんで数で変わるんだろ…。
例えば、2つの要素を組み合わせると発動できる魔法があるとしよう。
すると、偶数の場合…つまり、2、4、6といった数で組み合わせれば、魔法は発動してくれる。
ところが、奇数の場合には発動すらしないのだ。
うーん…頭がこんがらがってきた。
「単にセットになっているってわけでもなさそうなんですよね…。うーん…。」
「ナハハハッ!すっかりコウタも研究者じゃな。いやー、うれしい限りじゃわい。」
「いや…えっと…はい…。」
コロンさんが
誰かに喜ばれるのは…やっぱりうれしい。
異世界に来てよかったとまでは思わないし、チートだっていまだに欲しい。
それでも、もうしばらくはこの世界に…それもありかと、そう思っている。
「その辺の資料を集めておこうかの。コウタも読みたいじゃろうし。」
「よろしくお願いします。あ…もうこんな時間ですね…じゃあ、コロンさん。俺もギルドに行ってきます。」
「うむ。エリのこと、よろしく頼んだぞ。」
「はい。」
こうして俺は、午後の予定をこなす。
採取依頼は
数時間の採取で、生活費は十分に
―――なんか…薬草採取のプロになっている気が…。
そんな不安はさておき。
「おっと、これは…
薬草にまぎれて咲く
名を「
効果は基本的に薬草と同じなのだが、回復量が段違い。
この町の冒険者というよりも、主要都市で働く冒険者に
強力なモンスターの
というわけで、ギルドでも特別なシステムがあるのだ。
「回復花」に限っては、依頼の
しかもかなり高く。
―――ま、売らないけど。
さすがに一か月も採取を続けていると、両手では数えきれないほどの回復花を採取できている。
その度、エリさんにプレゼントしているのだ。
エリさんは討伐依頼をこなす冒険者なので、回復アイテムはあるに
―――そういえばゲームだと…薬草そのままより、合成したりした方が効果高いよね。
そんなことをふと思った。
薬草より回復薬みたいなものを、グイっと飲むイメージが強い。
ところがこの世界では、冒険者が薬草をむしゃむしゃ食べる。
―――合成とかできないのかな…?
また好奇心に
現実世界的なイメージでは科学の分野な気もするが、魔法でできるならば個人的にはありがたい。
科学の知識なんて、高校の教科書程度しかないのだ。
そんなことを考えていると、視界の
「あ、エリさん…って、大丈夫ですかっ!?」
装備が泥のようなもので汚れている。
きっとすごい戦いを繰り広げたのだろう。
パッと見た感じ、
「コウタさん!あ…これは…その…。」
エリさんは目をそらしつつ、こちらにテコテコとよってきた。
「どうしたんですか…?」
とりあえず紳士的にハンカチを渡しつつ、事情を聞いてみる。
「ありがとうございます…実は…。」
「え…落とし穴を
想定外の回答に、目が点になってしまった俺。
敵が思ったより素早かったため、トラップをしかけたとのこと。
なんという行動力。
それにしても落とし穴とは、ずいぶんと古風な。
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