015 倦怠感どころでは
アニメに登場しそうな道具を、テキパキと手際よく操っているコロンさん。
どうやら今の防御魔法を、計測器的なもので確認しているらしい。
「ぬぉーっ!なんと…そうか、ここで数値が上がるのか、なるほど!」
全力で…キラキラのまなざしでもって、ひとり言を叫ぶコロンさん。
昨日、出会ったときとは大違い…まるで水を得た魚だ。
そんなコロンさんの様子を、エリさんは優しい表情で見守っている。
「あの…エリさん。魔法ってやっぱり強くないですか?」
多少の手加減があったとはいえ、槍をあの至近距離で受け止めていた。
これは…かなりすごいことだと思う。
俺のアニメ的知識に基づけば、魔法は近接戦闘において不利をとるはずだ。
近接戦闘まで有利となれば、みんな魔法を使う。
誰も剣や槍を使わなくなってしまう。
―――でも…今、普通に受け止めた…。
事実は小説より奇なり。
どうやら異世界、魔法はかなり強いらしい…との結論を得た俺。
「…そうなんですよ!強いんです!」
エリさんがすごく誇らしげだ。
「ですよね!」
なんだかテンションが上がってきた。
チートなしなんて…とへこんでいた気持ちは過去へと飛び去り、今はエリさんの笑顔を魔法の可能性が俺の思考を満たしている。
―――エリさんも…魔法、使えたら良いのに…。
チートもない、冒険者としての実力も赤ちゃん以下…そんな俺が魔法を使えてるのに…。
この世界、残酷すぎる気がする。
これだけ魔法を望むエリさんには、その力を与えないとは…。
―――世知辛いというか…でも…。
俺は今、魔法リストの…とある項目にくぎ付けとなっている。
16番目にのっていた魔法。
名前は…魔法譲渡。
説明欄には「両者が互いに同意しあうことで、魔法の力の一部を受け渡すことができる」と記載されている。
もしこれが本当にできるならば…エリさんも魔法が使えるようになるのではないか。
「よしっ!次行ってみよう!」
コロンさんがバタバタと戻ってきた。
聞くタイミングを逃してしまいそうなので、やや強引に切り出す。
「あの、すみません!一つ質問がありまして…。」
「うむ?なんでも聞いてくれ、質問は学問の基本じゃ。」
「この魔法譲渡って、俺でも使えるんですか?」
少しの静寂の後、コロンさんが柔らかな表情に変わった。
「…ああ、エリに魔法の力を分けようと思っておるのか、コウタは優しいのお。…ただ、残念ながらそれは難しいのじゃ。それはあくまでも魔法使いどうしの話での。」
それは残念だ。
ということは、魔法使いに転職するということは…かなり難しいということになる。
世知辛すぎるよ、この世界。
「コウタさん…。」
「うーん…残念だな…。よし、じゃあ次の実験行きましょう!」
話が暗い方向へ行かないよう、強引にテンションを上げてみた。
不自然でもこれが一番だと思う。
「よし、では次に24番目・改の魔法を…。」
「はい。えーっと…あ、これですね。」
「10回ほど頼む。」
そんなこんなで魔法の実験は…俺が吐き気を催すまで続いた。
コロンさんの見立てでは、俺は防御魔法を1としたとき、50程度の量まで魔法を使うと、体調に異変をきたすようだ。
最も単純な攻撃魔法でも5程度らしいので、このままでは戦いにならな…。
―――うぅぅぅ…気持ち悪い…。
■
ちなみに魔法陣とやらは、現実世界でいうところの化学式に似ている。
水素と酸素で水になるように、何かと何かを組み合わせるという感じだ。
コロンさん
そのルールを探すことが、魔法学の最終目的なのだそう。
「いやー、本当に助かった。これで研究はどんどん進むぞ。限界もわかったことじゃし、明日からは効率的に実験ができそうじゃわい。」
「それは何よりです…もうこんな吐き気はごめんなので…。」
「ナハハッ、安心せい。エリもおってくれるし。」
そう、エリさんが看病してくれていなければ、結構つらい仕事だ。
さっきからずっと背中をさすってくれている。
別の意味で熱が出そうな状況。
いや、うれしいのだが…。
風邪をひいたとき、一人でいると不安になる。
誰かがそばにいてくれるだけで、楽な感じがする。
今はまさにそんな感じだ。
「コウタさん、あんまり無理しないでくださいね。」
「はい…ありがとううううう…ございます。」
間断のある吐き気が…定期的に襲ってくる。
やっぱり…つらい。
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