014 初出勤
緊張のなか、玄関にて深呼吸を1回。
ゆっくりと息を吸い込み、ほっぺのあたりを軽くもむ。
―――よし…。
気合いを入れて、とりあえず元気に挨拶を。
「コロンさん、おはようございます。」
「おじいちゃん、コウタさんが来たよー。」
奥からドタバタと音が聞こえてきた。
途中、ドカッっていう…痛そうな音が聞こえたのだが、あれは気のせいだったのだろうか。
それはさておき。
「おうおう、よく来てくれた。さあさあ、昨日作ったわし特製の魔法リストじゃ。現存する魔法…発見済みのもの全てを
玄関先でいきなり手渡されたのは、まさかの魔法リストだった。
「え…これ…全部のってるんですか?」
「もちろん、わしが知っておる戦闘用の魔法全部じゃ。」
コロンさんは「それがどうかしたか」と言わんばかりの表情だが、とんでもないものをもらった気がする。
少なくとも俺の異世界転移系の知識…つまりアニメから得た知識に基づくならば、魔法というのは順を追って覚えていくものだと思っている。
ややメタ的な想像になってしまうが、最初の段階で全て明かされてしまうと…なんというか、伸びしろをつくりにくい。
―――小説的にそれは…いや、これは現実だから、こっちの方が良いのか…?
よくわからなくなってきた。
すごすぎるものを目の前にした影響で、思考が荒ぶっている。
「論文で何度も公開しておるものを、表形式でまとめただけじゃぞ?それをひとつずつ覚えていけば、普通に戦える魔法使いになれるはずじゃ。さて、現時点でわしの教えられることは以上じゃな。」
魔法の講義、わずか数十秒で終了した。
「あ、ありがとうございました…?」
混乱のなかで
それはコロンさんの満足そうな笑顔でもって、受け入れられることとなった。
■
あっけにとられている俺をしり目に、コロンさんは「もう待てない」とばかりに次の話を始めた。
「早速研究じゃ!試してもらいたい魔法が山ほどある。えーっと、確かコウタの魔法攻撃力は1000じゃったな…そうすると…。」
足早に案内された研究室…兼リビング。
テーブルの上には山のように資料が乗っている。
開かれたままの本もあふれかえっており、昨日のお邪魔した部屋とは思えない。
―――元気になられたみたいだ。
ほっと胸をなでおろす。
それにしても…あれが全部魔法関係の資料だとすると、研究のすごさ…大変さがよくわかる。
「おお、これじゃこれ。まずは防御魔法からじゃな。昔の防御魔法は、投げつけられた石を
最後の一言だけ、ややトーンが低かったのは…ご
あまりにも気になるが、これを気にしてはいけないと…俺の勘がそう言っている。
…という冗談はさておき、コロンさんが、エリさんに剣を渡した。
攻撃力1の俺では、剣も振るえない。
いや、振るえはするが、何も
―――物理なら…ワンチャン…?
ない。
目の前には、ワンピース姿で剣を持つエリさん。
なんだか妙に似合っているのが不思議だ。
「よし、ではコウタよ。防御魔法をその丸太にかけてみてくれ。防御魔法は、さっき渡したリストの12番・改にある。」
俺はリストを手早く確認し、2頁の真ん中らへんを目で追った。
―――えっと…あ、これだ。
幾何学模様と格好をつけてはみたが、普通にちょっと曲がった二重丸といった模様だ。
それを頭に思い浮かべる。
「じゃあ、行きますね。」
杖を構える。
初めての魔法を使う。
高揚感と緊張感の二重奏だ。
『ワイド・シールド!』
魔法の唱え方はそこまで難しくなかった。
魔法陣を思い浮かべながら、詠唱するだけで発動する。
次の瞬間、丸太に青白い光がまとわりついた。
「よし、エリ。頼んだぞ。」
「はい。」
剣をじりっと握りなおしたエリさん。
真剣なまなざしもまた…素敵だ…。
―――…ん?防御魔法って跳ね返すんだよな…跳ね返す…?
それ…まずくないか!?
「あーっ!ストップ、ストップ!」
気づきが突然すぎて、自分でもびっくりするぐらいの大声が出てしまった。
「跳ね返すんですよね…危なくないんですか?」
エリさんは剣を持っている。
もちろんおもちゃなどではなく、本物の剣。
モンスターだって
そんな剣を持ったまま跳ね飛ばされては…一大事になりかねない。
危なすぎる。
こんなかわいいエリさん、怪我でもしたらどうするのか。
「…確かにそうじゃな…。うーん…よし、こうしよう。」
師匠というか、職場の上司に対して失礼だが…さすがにもうちょっと気をつけてほしい。
結果、武器が長い槍に変更された。
これならばまだ安全だろう。
俺が代わりにできれば良いのだが、あいにく攻撃力は1しかない。
「じゃあ、改めまして…。それっ!」
鋭く突き出された槍。
丸太の中心をキレイにとらえたその攻撃。
キンッという金属がぶつかるような音が響く。
防御魔法は…見事に槍を受け止めていた。
エリさんは半分くらいの力しか出さなかったらしいが、これは十分な成果らしい。
ちなみに今の防御魔法で、俺の魔法攻撃力は1上がったそうだ。
ステータスが普通に見られないことは不便なのだが、例のテレビだと思っていた機械でもってチェックすることができる。
―――じゃあ…テレビはないのか…。
残念ながら、アニメ談議に花を咲かせることはできないらしい。
―――あれ…でも、魔法は使えるわけだし…。
現実の経験に花を咲かせることになるわけか…。
「いやーすごいぞ!これで論文が一つ書けるわい。」
コロンさんがスキップで奥の部屋へと飛んでいった。
苦笑いのエリさん。
かわいい。
コホン…それはさておき。
この世界には、いわゆる
魔法攻撃力…別名、魔法の力が魔法に関する統一的な数値とのことだった。
その数値がMPを兼ねているといったところだろうか。
というわけで魔法攻撃力の限り魔法を使えるわけなのだが、あまり使いすぎると体力が削られていく。
そうならないまでであっても、
―――むやみやたらなことはできない…か。
休んでいれば回復する数値ではあるらしいが、機械で把握できるのは絶対量のみ。
どれだけ減ったか…あとどれくらい魔法を使えるか…というのは、体感ではかるしかないそうで。
「無理…なさらないでくださいね。」
「はい。ありがとうございます。」
エリさんの優しさを、素直に受け止めた俺だった。
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